研究課題/領域番号 |
19K13112
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研究機関 | 東洋学園大学 |
研究代表者 |
小林 広直 東洋学園大学, グローバル・コミュニケーション学部, 准教授 (60757194)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ジェイムズ・ジョイス / アイルランド / ディアスポラ / ユダヤ / 亡霊 / トラウマ / 亡霊 / ジャック・デリダ |
研究実績の概要 |
今年度は、2022年2月2日の『ユリシーズ』出版百周年記念論集へ寄稿した論文「手紙を読む/読まないブルームを読む――『ユリシーズ』の手引きとしての手紙」(査読有)の加筆修正、および同論集への「あらすじ」(第5挿話と第14挿話)、さらに『ユリシーズ』を読むための「コラム」として「ユダヤ人」と「検閲、裁判」の項目を執筆した。中でも、「ユダヤ人」のコラムを執筆する際に、『ユリシーズ』の主人公であるレオポルド・ブルームがユダヤ人の父を持ち、自身はアイルランド人としてのアイデンティティを持っていることの意義を、先行研究を参照しつつ、再考することができた。また、拙論についても、「亡霊」という言葉こそ使っていないが、『ユリシーズ』の一日においてブルームの脳裏には、妻の恋人であるボイランの存在、および彼が文通上で「不義」を行うマーサの手紙の文言が、まさに取り憑いていたということを明らかにした、という点で、本研究の一つの主題である亡霊についての考察が、また一歩着実に進んだと自負している。 また、20年度の報告書にも記した通り、2019年6月より、隔月のペースで、一般読者を対象にした読書会を、日本ジェイムズ・ジョイス協会の若手研究者2名(南谷奉良氏、平繁佳織氏)と共に主催している(「2022年の『ユリシーズ』―スティーヴンズの読書会」)。それに伴い第11~第16挿話を再読することができた。本会は、研究成果を広く国民に還元するという科研費の本義に鑑みると、一定の貢献ができたと考えている。 本研究テーマ(Irish Diaspora))に関しては、Mary ColumのLife and Dreamの翻訳(共訳)を行うことで、亡命先のアメリカにおいてアイリッシュ・アメリカンがどのようなコミュニティを形成していたかを分析することができた。同書の翻訳は22年度中に刊行される予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
上述の通り、『ユリシーズ』100周年記念論集への投稿、および一般読者を対象にした読書会は非常に充実した成果を得ることができた。しかし、予定していたダブリンにおける資料収集については、コロナ禍のため実施することができなかったため、次年度の課題としたい。 ジョイス研究は、その難解さゆえに、作品の分析に多くの時間を割かれてしまう。昨年度に引き続き、一橋大学の金井嘉彦教授のゼミに参加し、ジョイスの唯一の劇作品である『エグザイルズ』を精読した。これによって本研究の一つの主題である「移民」あるいは国を捨てること(exile)についての考察は進んだが、引き続き同時代の歴史的言説を知るべく雑誌や新聞などのアーカイヴ調査を行う必要を痛感した。また、ジョイスの一世代前の、ジョージ・ムアやオスカー・ワイルド、W・B・イェイツの作品分析をジョイスとの比較において行うことで、19世紀末から20世紀に至るアイルランドの文学状況を捉え直し、それを歴史学研究の知見であるIrish Diasporaの観点に接続したいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
2022年に『ユリシーズ』は出版100周年を迎えた。筆者は、出版日の2月2日(水)を皮切りに、各月2度(第1・3金曜日、20時から22時)に開催されている、一般読者を対象とした『ユリシーズ』の読書会(『ユリシーズ』への招待――22Ulysses)の発起人の一人として現在運営に関わっている。本会は、22年5月現在、毎回200名以上の参加者を集めているが、研究成果を広く国民に還元するという科研費の本義に鑑みると、一定の貢献ができていると思われる。引き続きこの読書会をさらに盛り上げてゆくことで、『ユリシーズ』のみならず人文学が持つ可能性を様々な角度から発信してゆきたい。 また、22年度は本研究の最終年度に当たるため、6月には『ユリシーズ』の100周年を記念するアイルランド、ダブリンで行われる国際学会(International James Joyce Symposium)に参加し、世界中の研究者と交流をするとともに、最先端のジョイス研究に触れる機会にしたい。その際、UCDのMAコースに留学した際に指導していただいた、Anne Fogarty教授やMargaret Kelleher教授、Luca Crispi博士とコンタクトを取り、最新の研究状況についてお話を伺うだけでなく、今後所属学会(ジョイス協会やIASIL Japan)での招待講演などの可能性についてもお尋ねできれば、と考えている。 最後に、本研究の総まとめとして、アイリッシュ・ディアスポラという観点から『ユリシーズ』に描かれている「悪夢」の歴史を分析し、早稲田大学英文学会の学会誌『英文学』(9月30日締切)への投稿を行うと共に、6月には日本ジェイムズ・ジョイス協会年次大会での口頭発表(エゴイストは歴史を学ぶ事ができるか?―『ユリシーズ』におけるパトリオティズム)が決まっているため、こちらについても、年度内の論文投稿を目指す。
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