研究課題/領域番号 |
19K13152
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
有田 豊 立命館大学, 政策科学部, 准教授 (30771943)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ヴァルド派 / キリスト教 / 教理書 / 中世写本 / ロマンス語文献学 |
研究実績の概要 |
2020年度の研究計画としては、①7本の詩の解読と分析、②中世ヴァルド派思想の俯瞰、左記の2つを進めていくことを目標としていた。 ①の実績としては、『舟』La Barca、『4つの種の福音』L'Avangeli de li quatre semencz、『祈祷』Oraczon の3本の詩を解読し、一通りの翻訳文を作成することができた。『舟』は、前半部分に現世厭離の思想が、後半部分に人間の一生を「現世を渡る舟」に例えたアレゴリーが記されている。『4つの種の福音』は、マタイによる福音書・第13章に登場する「種を蒔く人」についての注釈が記されている。『祈祷』は、神に直接向けた告解の言葉が記されている。このように解読は進んでいるものの、肝心の内容分析にはまだ至っておらず、成果として公開できる形に仕上げるためには、もうしばらく時間が必要である。 ②の実績としては、2019年度に解読と分析を済ませた『崇高なる読誦』La Nobla Leyczon を下地に、中世ヴァルド派の教理について、当該文書から読み取れるものとカトリック教会の異端反駁文書から読み取れるものを比較し、実際にヴァルド派が有していた教理はいかなるものだったのかを明らかにする論文を1本執筆した。本論文は、これまでカトリック教会文書を中心として明らかにされてきたヴァルド派の教理に対し、ヴァルド派信者たちは自らをどのような思想を持つ集団と認識していたのかを、当のヴァルド派側の文書を用いて考察した点に特色と意義がある。まだ出版されていないが、2021年度内には公開される予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
現在までの進捗状況として、2020年度の研究計画に含まれている2点――①7本の詩の解読と分析、②中世ヴァルド派思想の俯瞰――のうち、両方に若干の遅れがみられる。 ①については、2020年度中に詩編の解読を全て終えてしまう予定であったが、7本中3本しか解読できず、4本が残ってしまった。また、現地調査に行けていないことから、写本と照らし合わせた解読作業は、殆ど進んでいないに等しい状態にある。 ②については、先行研究の分析は進んでいるものの、肝心の詩編本文の解読が進んでいないことから、相乗効果的に遅れてしまっている。 遅れている理由としては、新たな職場環境への順応に加え、当初予期していなかった「新型コロナウイルスにまつわる各種対応」に極めて多くの時間を割く必要性が発生したことで、研究に充当できる時間が殆ど確保できなくなったという一点に尽きる。学内業務量が大幅に増加したのみならず、「オンライン授業」という未曽有の授業形態への準備が困難を極め、研究を進める精神的/時間的余裕が皆無に近い1年間であった。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策としては、進捗の遅れを取り戻すべく、①残る4本の詩の解読と分析、②中世ヴァルド派思想の俯瞰を、引き続き進めていく。 ①解読すべき詩としては、『現世の蔑視』Lo Despreczi del Mont、『永遠なる父』Lo Peyre Eternel、『新たなる救慰』Lo Novel Confort、『新たなる説教』Lo Novel Sermon の4本が挙げられ、2021年度内には全ての解読が終わる予定である。 ②中世ヴァルド派思想に関しては、2020年度中に解読した『舟』La Barca、『4つの種の福音』L'Avangeli de li quatre semencz、『祈祷』Oraczon の3本の詩の分析を進めており、年度内に分析結果を公表する予定である。 年1回はヨーロッパ現地に写本の調査に行くことを前提とした本研究であるが、新型コロナウイルスの影響から2020年度は渡航を自粛せざるを得ず、また2021年度も同様に現地調査の見通しが立っていない状況である。そのため、コロナ禍が落着するまでは、引き続き日本国内で実施可能な解読作業に尽力していくほかない。方針としては、2021年度内に詩編の解読/翻訳作業が全て終わる見込みなので、2022年度の研究期間最終年度に集中して現地調査を実施できればと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が発生した理由としては、写本の画像データの購入資金が未だ使用できていないことによる。 写本は全部で3種類あり(Cambridge写本、Dublin写本、Geneve写本)現状では、前者2つの画像データが手元にある。Cambridge写本は、マイクロフィルムから複製したモノクロ版なのでカラー版を改めて購入する必要があるのだが、現地で原物を確認してからの購入を検討している。Geneve 写本はマイクロフィルム自体が存在しないため、現地で原物を確認してから、必要なページの電子化を依頼することを検討している。 よって、次年度使用額として算出されている予算は、2021年度以降に写本の画像データを購入する資金として充当していくこととする。
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備考 |
(3)は、2020年度中に作成された(2)の英訳版である。
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