研究課題/領域番号 |
19K13200
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研究機関 | お茶の水女子大学 |
研究代表者 |
竹村 明日香 お茶の水女子大学, 基幹研究院, 准教授 (10712747)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 謡伝書 / 能楽 / アクセント / 胡麻章 / 音韻 / 清濁 / 日本語学 / 伝統芸能 |
研究実績の概要 |
本年度は、野上記念法政大学能楽研究所(以下、能研)に所蔵されている謡伝書を網羅的に調査し、日本語学的観点から見て注目される伝書を選定する作業を引き続き行った。その結果、真嶋円庵の著作群(『観世宗雪謡秘書』『うたひ伝受』など)には四つ仮名や開合などの音韻に関する記述が多く確認できること、また、『節章句秘伝抄』や『謡之大事口伝抄』には清音・濁音に関する記述が見られることなどが明らかになった。その他、いろは歌や複数の単語に胡麻章を附して当時のアクセントを示そうとする『金春流詠之口伝集 宗因袖下』などが見いだされ、日本語音韻史に新たな知見をもたらす記述を数多く発見することができた。 また、本年度は、「見えぬ」「たえぬ」のような打消の助動詞「ヌ」と完了の助動詞「ヌ」のアクセントの差について論じようとする謡伝書の条目について個別的に検討した。その結果、この条目の記述のバリエーションは伝書の系統によって4つに大別することができることが判明した。また、打消の「ヌ」を高アクセント、完了の「ヌ」を低アクセントで示す謡伝書の記述は、当時のアクセントの実態に合致していることも明らかにした。この結果をまとめ、研究発表を1本行った。 なお本研究は、「能楽の国際・学際的研究拠点」として文部科学省に認定されている能研が公募した「2021年度公募型共同研究」に採択された。年度末には能楽師・能楽研究者が参加する研究成果報告会にてその調査結果を報告し、芸能史研究者からも多くの指摘を受けることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
資料調査はあらかた終えることができ、それぞれの資料の特質も大方把握することができたため、調査はおおむね順調に進展していると言える。ただしその一方で、夏以降の大規模なコロナウイルス蔓延により子供の自宅保育が推奨されたため、在宅勤務では思うように仕事がはかどらず、分析と論文化に想定以上の時間がかかっている。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策としては、以下の方法を考えている。 (1)『うたひ鏡』と『金春流詠之口伝集 宗因袖下』についての調査結果を発表し、論文化する。『うたひ鏡』に関しては、当時の謡伝書としては珍しい濁音前鼻音についての記述が注目されるが、これらは既に存在していた連歌書や歌論書などからの影響によるものか、それとも独創的に記されたものかを明らかにする。また、『金春流詠之口伝集 宗因袖下』に記されたいろは歌と、いろは四七字を語頭にもつ語のアクセント(胡麻章)については、先行研究のアクセントデータと対照しながら個々に調査し、それらが執筆された近世初期のアクセントを反映しているものかどうかを見定める。 (2)真島円庵関係の謡伝書群(円庵伝書)における音韻関係の記事を抜粋し、「音韻に関するどのような事柄が人々の関心を引いたのか」を明らかにする。円庵伝書には、四つ仮名や清濁、開合に関する記述が多くみられるが、それらは何を典拠としているのかも未だ明らかになっていない。そうした典拠問題も解消することを目指す。 (3)謡伝書としては、『音曲玉淵集』という江戸期の刊本が日本語学的資料としては最もよく知られているが、そこに掲載されている記事は、どのような先行写本から伝来したものかを明らかにする。これまで記事の伝承についてはほとんど明らかにされてこなかったが、それらを示すことで、伝書の系統関係や、記述の新旧などが明らかにでき、そこに記された音韻現象の信憑性も確認することができるようになる。 以上(1)~(3)の調査結果をまとめて、学会発表や論文化を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
学会がオンライン開催となったために参加のための出張費・宿泊費などが未使用となったほか、大学院生の不足により翻刻のアルバイトを依頼することができず、その分の予算が消化できなかったため。翌年度は院生のアルバイトを確保し、人件費に充てるとともに、参考図書などの購入に充てる予定である。
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