本研究は、対独ラジオプロパガンダに参加したドイツ語圏からの亡命者(以下、「ドイツ系亡命者」)を手掛かりに、1930年代後半から1949年にかけての彼らの活動と思想の中に、ラジオプロパガンダの経験を位置付けることで、同時期の言論空間の形成過程の一端を解明しようとするものである。ISK(国際社会主義闘争同盟)とNeu Beginnen(新規まき直し)という小規模社会主義組織の構成員を主たる検討対象とする。 最終年度にあたる23年度は、まずISKの亡命以前の動向を追った。そこでは従来社会主義者としてのみ理解されてきた、ISKの創設者レオナルト・ネルゾンの思想をもとに、第一次世界大戦を挟んで、元々自由主義者を自認していたネルゾンが、なぜどのようにして社会主義者を標榜することになったのかを確認した。その上で、ISKの構成員に対するネルゾンの思想的影響力を検討した。また、合わせて、ヴァイマル期におけるISKのキリスト教に対する主張を整理し、その主張が、戦後ドイツにおけるSPDとキリスト教会の関係性構築の議論とどう関係するかを検討した。Neu Beginnenについては、設立期を扱った古典的研究を取り寄せるとともに最新の研究を蒐集、1930年代における活動・人的ネットワークが、戦中戦後にかけていかに接合されていったのかについて追った。これらの研究成果は、査読付論考および研究発表という形で、公開した。 研究期間全体としては、まずイギリスの対独ラジオプロパガンダに参加したドイツ系亡命者のリストをもとに、BBCのドイツ語放送の中で、如何にISK、Neu Beginnenの構成員たちの影響力が大きかったかを確認したのちに、両組織の第二次世界大戦以前の主張・思想を確認、その上で、第二次世界大戦後への展望を示した。これらの研究成果は、複数の論考、研究発表という形で公開した。
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