文献史料とオーラルヒストリーを統合する手法により、近世から現代にいたる東南アジア山地民の地域間移動が、関係諸国家に与えた影響を解明しようとする本研究課題の最終年度の実施概要は以下の通りである。 今年度は、当初の研究計画の内、未実施であったフランスの黒タイ・インドシナ難民の調査を中心に研究を実施した。事前調査において、南仏のリヨンとトゥールーズに大きなコミュニティーがあることが分かっていたが、今回は移民受け入れの歴史が深く他地域との比較に有意な情報が得られると考えられるリヨンを調査地とした。現地では、ローヌ県・リヨン都市圏公文書館及びリヨン市公文書館における資料調査と在仏黒タイ協会の関係者を中心にインタビュー調査を実施した。これらの調査において、難民キャンプでの黒タイ指導者層の役割やフランスにおける黒タイの伝統文化維持活動、政府援助との関わりなどについての情報を得ることができた。特に、SNSを利用した民族文化の発信は、アメリカに比べると少ないが、文化活動における地域間の連携や、二世によるアート活動等による民族アイデンティティの問い直しなど、アメリカとは異なる動きが見られることがわかった。 以上の調査や昨年度までの調査分析内容に基づき、山地民の移動が国家間の境界形成にいかなる役割について論じた論考と、山地民の存在がベトナム国家の形成に与えた影響に着目したベトナム史の概説書を執筆した(いずれも令和6年度刊行予定)。
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