本研究課題は18世紀パリを対象とし、フランス絶対王政期の統治構造の特徴である「社団的編成」の埒外に存在した周縁的社会集団に着目し、都市統治一般を意味するとともに秩序維持を担っていた「ポリス」側が彼らをいかに社会内部に包摂あるいは排除したのか解明するものである。 令和5年度前半は、令和4年度中にフランス国立図書館で収集した史料の解読と分析を中心に行った。社団をもたないという点で周縁的な社会集団に対して用いられたポリス側の統治技法、例えば、彼らの人的ネットワークを把握し可視化させることでひとつの集団と捉え、記録を徹底することにより自らの管理下に置くという実践は、周縁的社会集団という枠を超え、18世紀後半のパリ社会一般へと敷衍可能な段階として認識されていたのではないかという仮説をもとに、ポリス側と社団として法認されていたパリの労働組合の権力をめぐるせめぎ合いがいかなるものだったかを把握することに努めた。さらに、1776年の財務総監チュルゴーによる同業組合廃止(=社団解体の試み)と周縁的社会集団をめぐるポリスの統治技法の関連性を解明すべく、令和5年度の夏期休業中に渡仏し、フランス国立図書館手稿部とパリ市歴史図書館で史料調査を行った。現地史料調査の結果、1776年の改革をめぐるポリス側と王権側の意見書や大臣間の書簡等を入手することができた。これら史料の分析と考察、研究成果の公表は今後段階的に行う予定である。 一方、本研究課題では、研究成果の一部を約15年来交流のある日仏の近世史研究者との議論に付すことを目標としており、周縁的個人が「書く」という能力を用いることで、社団的編成に基づく社会のなかでいかに上昇を図ったかを考察した論文が、『「身分」を交差させる』(高澤紀恵、ギヨーム・カレ編、東京大学出版会)に掲載された。また、本書の合評会が開催され、報告者も執筆者のひとりとして登壇した。
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