研究課題/領域番号 |
19K13385
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
石田 真衣 大阪大学, 文学研究科, 助教 (90839375)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ヘレニズム / プトレマイオス朝 / エジプト / 社会規範 / 書簡 / 嘆願 |
研究実績の概要 |
本研究は、ヘレニズム期エジプトにおける書簡を媒介とする日常的コミュニケーションを考察対象とし、当該時代の書簡の基礎研究を深めると同時に、秩序維持の観点から、社会規範の形成と変容のプロセスを解明することを目的とする。法制度と公的組織の機能分析に偏る従来研究の手法から離れ、制度外のコミュニケーションを通じて形成される社会規範に着目することによって、プトレマイオス朝社会史の新たな分析視角を提示する。 本年度は、国内外での調査研究をとおして、研究全体の基盤となる書簡史料の収集に努め、史料のデータベース化をすすめるとともに、紛争処理の観点から書簡の分析をおこなった。データベースにおいては、各史料の年代、出土地、差出人、受取人、内容、人的関係を中心に、約600点の書簡史料の構造と特徴について整理した。さらに、書簡と類似する嘆願書史料との比較考察から、紛争処理をめぐる書簡の活用事例を確認した。 基礎研究において、主たる書簡史料は、エジプト全域から出土している書簡パピルスであるが、そのうち碑文として残存している書簡テキストも分析対象とした。書簡碑文を加えることによって、在地社会のコミュニケーション形態の多様性がみえてくる。パピルスを媒介とする当事者間の交渉過程が、公開性と永続性をともなう碑文として記憶されたとき、書簡史料は、より広い社会的文脈のなかで考察され得る。書簡碑文が果たした社会的役割については、現在論文を執筆中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の目的は、本研究の基盤をなす書簡の基礎的研究であり、ヘレニズム時代の書簡を中心とする資料収集とデータベース化をすすめることができた。しかし、紛争処理に関連する書簡全体の類型化と内容分析には及んでおらず、今後迅速にすすめる必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画通り進める方針である。具体的には、紛争処理に関連する書簡の内容分析をすすめる。ローカルなコミュニティのなかで実践される紛争の予防や直接交渉、和解の諸相を明らかにし、個人と集団の多様な人的関係を復元することを目指す。また、日常的交渉のなかで語られる規範について、他の法的資料との比較考察をおこなう。これらの作業をとおして、従来の紛争処理研究の射程を拡げるとともに、ヘレニズム期からローマ期にかけての社会変容プロセスを明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初1か月程度の海外調査を予定していたが、研究諸機関との日程交渉や研究者との打ち合わせの都合により、今年度分の滞在期間を2週間程度に短縮したため、予定額に達しなかった。次年度使用額については、翌年度分の助成金とあわせ、海外調査が可能となった場合には、旅費に充当し、困難な場合は、国内外から史料や文献を入手する費用に充当する。
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