研究課題/領域番号 |
19K13385
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
石田 真衣 大阪大学, 文学研究科, 助教 (90839375)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ヘレニズム / プトレマイオス朝 / エジプト / 書簡 / 嘆願 / パピルス |
研究実績の概要 |
本研究は、ヘレニズム期エジプトにおける書簡を媒介とする日常的コミュニケーションを考察対象とし、当該時代の書簡の基礎研究を深めると同時に、秩序維持の観点から、社会規範の形成と変容のプロセスを解明することを目的とする。法制度と公的組織の機能分析に偏る従来研究の手法から離れ、制度外のコミュニケーションを通じて形成される社会規範に着目することによって、プトレマイオス朝社会史の新たな分析視角を提示する。 本年度は、メディアとしての資料の性格に目を向け、パピルスに記された嘆願書が石に刻まれる事例をもとに、異なる媒体で機能する嘆願テクストについて考察を深めた。特に、王への嘆願とその返答という一連の交渉プロセスがギリシア語で刻まれたフィラエ・オベリスクの事例をもとに、嘆願と記念行為の関係を明らかにした。王の言葉がパピルスから石に移動し、公開され、記念されるプロセスは、東地中海世界におけるプトレマイオス朝の対外政策にもみられることから、ヘレニズム期の王朝と現地勢力の関係構築のあり方をさぐる重要な手がかりとして、今後さらに検討していくことが必要である。 また、エジプトのファイユーム地方においてギリシア語による嘆願手続きが浸透した背景について考察を深めた。ファイユームは新興地域であったがゆえに、新しい官僚組織とギリシア語による嘆願の文書化が急速に浸透したと考えられる。そのような枠組みとともに、次第に各地区とコミュニティに独自の嘆願処理ネットワークが形成されていった。ファイユームの事例研究から、ヘレニズム期におけるローカルな人的関係の形成過程の一端を明らかにすることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の目的は、書簡の内容分析をすすめ、ローカルな人的関係形成の実態を明らかにすることであった。パピルス文書から碑文資料へと考察対象を広げたことによって、多様なコミュニケーション形態に迫ることができた。しかし、ギリシア語碑文というメディアの選択が社会全体においてどのような意味を持ったのかについて十分に検討することができなかったため、今後はさらに多くの史料分析をすすめる必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
複数の言語様式によって実践される書簡コミュニケーションが、社会全体においてどのようなかたちで成立し、影響し合っているのかについて考察を深める。特に、ヘレニズム期後半からローマ期にかけてのエジプト語資料の収集と分析をすすめ、書簡の様式と社会的機能の変化について明らかにする。資料収集と分析にあたっては、可能ならば海外調査をおこなう。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は1か月程度の海外調査を予定していたが、新型コロナウイルス(COVID-19)感染拡大の影響により実行できなかった。次年度使用額については、海外調査が可能となった場合には、当初の計画通り旅費に充当し、困難な場合は、国内外から史料や文献を入手する費用に充当する。
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