本研究は、ヘレニズム期・ローマ期エジプトにおける碑文史料とパピルス文書史料を総合的に分析し、都市空間において繰り広げられる住民間の交渉と自治の実態を明らかにすることを目指すものである。 本年度は、私的組合と神殿共同体内部の人的紐帯について、碑文史料とパピルス史料の収集・分析をもとにデータベースを作成し、地域別の事例研究を進めた。具体的には、①信徒団、②軍人集団、③職人集団を中心とする組合に関する史料を精査し、各集団の自発的活動の内容と神殿(聖域)との関係について検討した。その成果の一部は次のとおりである。石田真衣「紀元前後のエジプトにおける社会結合」『古代文化 <特輯 古代ギリシア史研究の現在地(1)共同体>』75(1)、2023年、102-107頁。 また、パピルス文書の史料学的課題を検討し、デジタル史料の活用とその動向について報告をおこなった。石田真衣「パピルス・アーカイブと歴史研究」日本西洋古典学会第 73 回大会・フォーラム「西洋古典学とデジタル・ヒューマニティーズ」2023年6月4日(獨協大学);同報告要旨『西洋古典学研究』71、2024年、60-62頁。 本研究期間全体を通じて、ある程度の事例研究を蓄積し、その成果を公表することができた。COVID-19の影響により、当初計画していた海外研究機関におけるパピルス史料の収集・調査が滞り、期間内にデータベースを完成させることはできなかったが、分析対象を碑文史料に広げることによって、当該分野の史料学的問題や新たな研究アプローチを見出せたことは意義深い進展であった。
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