最終年度もコロナの影響が残り、資料調査を十分には実施しきれなかったが、前年度や前々年度に比べると、調査件数をかなり戻すことができた。ただし、主な検討対象とする予定であった獅噛環頭大刀は、実物資料の実見調査が制限されたことで、年度中の論文化には至らなかった。一方で、鉄製環頭大刀や双龍環頭大刀といった、これまで主たる検討対象としてこなかった資料の実見観察調査を重ねた。特に、古墳時代前半代の貴金属装飾をもたない外来系大刀である素環頭大刀・鉄製三葉環頭大刀の検討を深め、その系譜に関する考察を形にできたことは大きな成果である。 また、研究の開始当初から分析を進めてきた単龍・単鳳環頭大刀については、資料紹介を中心とした小論考を1本公表したほか、12月の古代武器研究会において現状の検討成果を整理・発表した。研究期間中に論文化することはかなわかったが、2023年度中に論文にまとめる予定である。 研究全体としては、外来系装飾付大刀のうち、これまであまり論じられてこなかった非主流の刀種(三累環頭大刀、三葉環頭大刀)や非装飾の鉄製環頭大刀を対象に、朝鮮半島や中国の資料を視野におきつつ、詳細な系譜関係を明らかにできたことが最大の成果といえる。論文の作成に際しては、可能な限り分析対象資料の実見調査を個別に実施し、自身で作成した実測図を提示しつつ、それらの観察所見に基づく堅実な立論を試みた。これにより、三累環頭大刀をはじめ、これまで曖昧に朝鮮半島との関係を示す「舶載品」とみなされてきた資料の評価に新たな視点を提示することができた。古墳時代後期における渡来系文化を理解する上での基盤を固めることができたと考える。 また、これまで図面や写真が知られていない外来系装飾付大刀の出土例を調査し、詳細な図面とともに紹介する取り組みも精力的に進めた。これらを学術的に活用可能な資料へと昇華できたこともまた大きな成果といえる。
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