研究課題/領域番号 |
19K13433
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
榊原 厚一 信州大学, 理学部, 助教(特定雇用) (40821799)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 高山域 / 水資源涵養 / 流出 / 雪氷 / 水の安定同位体比 / トレーサー |
研究実績の概要 |
本研究は,高山域の水資源涵養機構を解明することを目的に実施している.2019年度は,まず,中部山岳国立公園・乗鞍岳の標高2600 m地点に水文観測局(自動採水器,渓流流量観測測器,雨量計 等を含む)を設置し,継時的な水文観測と採水を実施した.ただし,積雪・暴風の関係で,乗鞍岳開山期間の7月~10月にのみ可能であった.さらに,雪氷融解の進行する8月と,雪氷がほぼ消失した10月に計18地点の高山湧水と渓流水を採取し,主要無機溶存イオン濃度と酸素・水素安定同位体比の分析を行った.その結果,次の重要な知見が得られた. 乗鞍岳高山帯の夏季(7月~9月)の降水量は1581 mm/3 monthであり,約40 km離れている松本市(標高約600 m)の降水量の約6.5倍であった.高山域の水資源涵養機能の重要性を示す観測データである. また,高山帯の季節的雪氷がほぼ消失するタイミングで恒常的な渓流は涸れ,その後は,降雨に明確に応答をし,流出現象が卓越することが分かった.高山域の渓流ピーク流量は,先行降雨量等には支配されず,1つの降雨イベントにおけるピーク流出までのイベント雨量によって規定されることが示唆された.ピーク降雨とピーク流出の時間差は,概ね10分程度であった. さらに,雪氷融解が進む季節と雪氷融解終了後の季節に採水した湧水・渓流水の化学分析の結果から,降水の起源を反映するd-excessが両者の間で明確な違いがあることが示唆された.雪氷融解に伴う水資源涵養過程を解明するための重要な情報となりうるため,次年度以降さらなる解析を進める.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
国立公園内において調査・研究をする許可の取得を行い,観測装置の設置をすることで水文データの取得ができた.さらに,標高2600 m~3000 mの森林限界より高標高地域にて湧水点を複数地点確認し,採水・化学分析を実施した.国立公園内かつ高山帯という,研究を実施するのに非常に厳しい場の条件にて,次年度以降の調査・解析につながる基盤が作成できたと言える.そのため,「おおむね順調に進展している」との判断をした.
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今後の研究の推進方策 |
乗鞍高山帯の開山期間中に継続的な水文観測を実施する.また,高山帯の雪氷融解に伴い,水文過程・水の化学成分等が日々変化していることが示唆されているので,高山湧水・渓流の採水頻度をあげる.水文データと水の化学成分から,雪氷融解に伴い,水資源涵養過程がどのように変化するかということを考察していく.
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次年度使用額が生じた理由 |
高山帯という過酷な場の条件によって,当初想定していた水試料の採取数よりも数が少なかった.そのため,化学分析のための費用の支出が少なかった.このことが,次年度使用額を生じさせた.ただし,このことは,高山域を研究対象地として設定することを計画した,当初から想定していたことである.そのため,次年度には,調査計画・高山帯を調査する装備を拡充させて,研究を進めるうえで欠かせない高山帯の環境水試料を必要十分の数,採取し,化学分析を実行する計画である.
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