研究実績の概要 |
本年度は、公私によるエンフォースメントの分担と協働の規範的な含意をアメリカ法を主軸に調査した。 まずは、昨年度より関心を有しているオピオイド訴訟に関しては、やはりパブリック・ニューサンスの原義や、州法務総裁の有している権限を超えてしまっているという批判が見られた。また、実際上、こうした訴訟によって州財政に対する支払いが行われた場合に、当該金銭がオピオイド濫用防止に用いられているわけではないという批判も見られた。これらの批判は、パブリック・ニューサンスに関するいわゆるFormalistやOriginalistによるアプローチとして見られる(Kendrick,2023)。 しかし、このような、公によるエンフォースメントに対する攻撃は、オピオイド訴訟のような被害救済的金銭賠償--その攻撃はpublic nuisanceを実体法的基礎に持つ限り理解しえないではない――に限らないというのが最も驚いた発見であった。SECによる執行訴訟やシヴィルペナルティのような、極めてアメリカ行政法にとって基本的な権限ですら、疑問に付されている(Jarkesy v. SEC, 34 F.4th 446 )。この判決の動向(とりわけ最高裁でどうなるか)と影響はまだ追いきれていない。この議論状況自体を紹介する意義は大きいと思うため、研究ノートなどを早いうちに公表したい。
研究期間全体を通じては、アメリカにおける州と連邦政府の対抗についての議論状況を紹介することや、私訴権についてのempiricalな文献の紹介を行った。また、日本法における私訴と行政訴訟についての従来の議論について再考する議論を行うことが出来た。
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