本研究は西欧および中東欧諸国の比較を通じて大連立政権の成立について問うものであった。議会制民主主義において大連立とは主要政党の野合であるとして問題視されてきた一方、政府の直面する問題に一致して乗り越えるための手段ともみなされてきた。昨今の欧州に目を向けると、ポピュリスト政党が躍進してきたことで、既成政党の大連立とはエリート間のカルテルとして批判の対象となってきている。他方、既成政党との協力を拒むポピュリスト政党の台頭は、欧州各国における統治の限界の問題を深刻化させている。いつ、どのように大連立政権は欧州で成立してきたのか。本研究では、西欧と中東欧における大連立のパターンを比較、ポピュリズムに揺れる欧州諸国が抱える議会制民主主義の問題を浮き彫りにすることを試みた。そこでは、複合的な条件の下で生じる大連立の多様なパターンを明らかにするために、「質的比較分析:Qualitative Comparative Analysis(QCA)」と呼ばれる手法を通じて、西欧および中東欧諸国における大連立政権の成立の分析について検討している。2022年には、経済・社会文化・グローバリゼーションの3つの角度から、ドイツでの大連立政権から2021年に発足した新政権への移行について分析を行った。これは2021年に行ったドイツの大連立政権について考察を加えたものの延長にある。研究期間全体を通じて実施した成果の中には、欧州における政権の発足に至るまでの連立交渉についてQCAを用いて分析を行ったこと、また中東欧の分析に関してはポスト社会主義の政治の書評の中で政権パターンに関する手立てを得たことも挙げられる。これらは欧州の政治過程分析でこれまで分離して検討されてきた、連立交渉と政権成立という二つをつなげる理論的示唆を有するものであったと考えている。
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