本研究は、19世紀後半から20世紀前半にかけてのイギリスの対外政策を一次史料に基づき再検討し、「宥和政策」に関する理解を修正することを目的とする。「宥和政策」とは、他国との交渉と妥協を通じて平和維持を目指すことと定義でき、その意味において「外交」という営みの中核に位置する政策である。しかし、先行研究では、「宥和政策」を1930年代に特有の現象と捉えるものが多く、第二次世界大戦を防げなかった「負」の側面が強調される傾向が依然として強い。本研究では、同政策を19世紀以来のイギリスの長期的政策の延長戦上に捉えなおし、各時代におけるイギリスの外交当局者の認識を一次史料に基づき精査する。そうすることで、「宥和政策」が、国力の限界から起こった一過性の現象ではなく、イギリスの対外政策のより深層に位置する伝統に根ざしていたことを明らかにする。
上記の研究目的を達成するべく、2023年度は、前年度までに引き続き、1930年代のイギリス外交に関する政府史料(FO 371など)を読解し、ジュネーヴ軍縮会議前後におけるイギリスの軍縮政策、再軍備政策に関する論文執筆に取り組んだ。同会議は、国際連盟の主導のもとで行われた陸軍兵力を中心とする広範な軍備の削減を目指した国際会議であったが、ドイツが脱退したことにより失敗に終わった。同会議は、戦間期が安定期から混乱期へと切り替わる分水嶺に位置し、精査に値すると考えている。
2023年10月に日本国際問題研究所にて、「イギリスとジュネーヴ軍縮会議(1932-1934年):軍縮から再軍備へ」と題する研究会報告を実施した。また2024年1月に、イギリスの国立公文書館にて資料調査を実施した。早期に研究成果をまとめ、論文として公表したいと考えている。
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