研究課題/領域番号 |
19K13853
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研究機関 | 大分大学 |
研究代表者 |
小野 慎一郎 大分大学, 経済学部, 准教授 (20633762)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | リスク / 期待リターン / 資本コスト / 会計原則 / 実現原則 / 保守主義 |
研究実績の概要 |
3年目にあたる2021年度はまず,期待リターンの推定に関する近年の研究動向をレビューした。近年は,ファクターモデルを前提とせずに,各社の会計数値そのものを使って,期待リターンを推定する方法が注目を集めている。インプライド資本コスト(ICC)法や,企業特性変数を含む回帰式に基づく予測リターン(characteristic-based expected return; CER)法がそれである。本レビューでは,(1)企業内部者がM&Aで適正価格での買収を目指すならば,CAPMの代替案としてICC法やCER法を検討する余地があること,(2)証券投資者が最適ポートフォリオを構築する際に,各証券の期待リターンや共分散行列を推定・入力する段階でCER法が有用であること,(3)会計研究者にとっては,資本コスト低減効果の測定や自社株買いなどのイベント後の異常リターンの測定で,CER法が活用できると考えられることを指摘した。 次に,コロンビア大学のPenman教授による近年の議論をレビューした。彼は,現行の会計原則にリスクとその解消が内包されていることに着目している。保守主義の原則や実現原則のもとで,研究開発などの高リスク投資は即時に費用処理され,収益の認識は事業リスクの解消時まで延期される。したがって,事業リスクの高低に応じて利益などの会計数値が変動するから,会計数値はリスクや期待リターンについての情報を伝達すると考えられる。近年の論文では,その主張を裏付ける実証的証拠が提示されている。また,リスクに見合った期待リターンの情報を伝達する会計変数の識別や,会計変数を利用した新たなファクターの構築も行われているといえる。 そして上記のレビューを踏まえ,日本企業のデータを用いた実証分析を行うために,データベースの構築やリサーチデザインの精緻化を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
リスク・期待リターン推定における会計情報の有用性や,それに対する会計原則の影響について議論した先行研究を要約し,その内容を雑誌『企業会計』の2021年5・6月号に掲載することができた。しかし,新型コロナウイルスの流行に伴う新規業務の発生や研究会の中止・延期などにより,研究の進捗に対して悪影響が生じた。その影響もあり,実証分析の成果を論文にまとめるには至らなかった。したがって,当初の研究計画からみると,現在までの進捗状況は「(3)やや遅れている」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
リスクや期待リターンを予測する会計変数の特定に関しては,事業活動と金融活動を区別するように組み替えた財務諸表を前提として,事業活動と関係する会計変数に焦点を当てる研究が散見される。したがって2022年度にはまず,純事業資産利益率(RNOA)に関する実証分析を行う予定である。また,会計変数を用いた期待リターンの推定とその有効性評価に関しては,Penman and Zhang [2021, Working Paper] の枠組みに基づいた実証分析を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
PC・プリンタ関連用品や資料整理用品などの一部が当初の予定よりも長く使用可能であったため,一部の物品購入を次年度に延期した。また,新型コロナウイルスの影響によって,研究会が中止・延期となる事態が生じた。これらの物品購入や研究会参加などは,関連する研究の進捗に合わせて,2022年度に行う予定である。これに備えて2021年度の助成金は,当初の年次計画の遂行の妨げにならない範囲で,2022年度へ繰り越した。 2021年度から繰り越した金額は,PC・プリンタ関連用品や資料整理用品の購入などによる物品費や,学会大会や研究会に参加するための旅費として使用する予定である。
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