研究課題/領域番号 |
19K14108
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研究機関 | 立教大学 |
研究代表者 |
中込 さやか 立教大学, グローバル・リベラルアーツ・プログラム運営センター, 特任准教授 (00778201)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | トランスナショナル / 留学生 / ジェンダー / 大江スミ / 家政学 / 家庭科 / イギリス教育史 / イギリス女子教育史 |
研究実績の概要 |
本研究は、大江(宮川)スミと家政学を切り口に、近代の日英間の女子留学生/女性教育者のトランスナショナルな移動そのものに着目すると同時に、それを可能とした各国の教育的・社会的状況を分析することで、19世紀後半から20世紀初頭の女子中等・高等教育の世界的な拡大の構造と特質を明らかにすることを狙う。 令和元年度は、大江スミのイギリス留学(1902~06年)に着目し、国際学会やセミナーで国内外の研究者と交流し、研究への理解を深めた。第一に、世界教育学会(WERA)2019年度大会では、シンポジウムの中で個別報告を担当し、大江スミのイギリス留学を事例に、日本教育史の研究成果を近年の英語圏でのトランスナショナルな研究蓄積の中にどう位置付けるかを検討した。第二に、科学研究費助成事業(課題番号18K02323:代表者 香川せつ子)と津田塾大学言語文化研究所アメリカ文学研究会との共催で、当該分野で世界的に著名なJoyce Goodman教授(英、ウィンチェスター大学)を招いた国際公開研究セミナー「教育史におけるジェンダーとトランスナショナル」を開催した。Goodman教授による報告を共同翻訳論文として『津田塾大学言語文化研究所報』に投稿し、採録決定となっている。第三に、科学研究費助成事業(課題番号18K02323)と合同で研究セミナーを開催し、個別報告に関してグッドマン教授から研究助言を受けた。第四に、イギリス教育史学会(History of Education Society, UK.ロンドン)にて個別報告を行った。 史料調査では、大江スミの1920~30年代の活動の実態を明らかにするため、日本YWCA、東京YWCA、市川房枝記念会女性と政治センターの婦選アーカイブスでの予備的な資料調査を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
令和元年度は、大江スミのイギリス留学(1902~06年)に焦点をあて、彼女のトランスナショナルな留学経験を19世紀後半から20世紀初頭の女子留学生の変化する4ステージの中に位置づけ、異なる地理的・文化的な空間にまたがる人・モノ・概念の転移そのものやそこに生じる複合的な関係を検証するため、文化の転移(cultural transfer)における媒介者(intermediary)としての彼女の役割を分析した。[Mayer, C. (2019). The transnational and transcultural: Approaches to studying the circulation and transfer of educational knowledge. In Fuchs, E. & Vera, E. R. (Eds.). The transnational in the history of education, Palgrave Macmillan.]研究成果は二つの国際学会を通じて発信し、国内外の研究者との研究交流を通じて次年度以降の調査研究の課題を明らかにすることができた。 しかし、COVID-19の拡大により2019年2月末~3月半ばに予定していたイギリスでの史料調査を中止したことで、本年度の後半に予定していた研究計画を延期せざるをえなくなった。中止された研究計画では、これまで着目の少なかったロンドン大学ベドフォード・カレッジの公衆衛生コースでの大江の経験を明らかにするため、ロンドン大学ロイヤル・ホロウェイ・アーカイブズやロンドン・メトロポリタン・アーカイブズでの史料調査を計画していた。また、現地研究者から研究上の助言を受けるため、Joyce Goodman教授や、Jane Martin教授(英、バーミンガム大学)との面談も予定していた。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究としては、まず、大江スミのトランスナショナルな留学体験の分析を深めるため、文化の転移を含む、近年のイギリス教育史学会やヨーロッパ教育史学会(ISCHE)を中心に展開される、トランスナショナルな分析枠組みや視角についての理解を深める。その研究成果を国内・国外の学会で発表するとともに、学術論文としてまとめて学会誌に投稿したい。 次に、大江スミの留学経験のうち、家政学と比較して着目が薄かった公衆衛生の教育の移入ついても焦点をあてたい。イギリスで得た公衆衛生の知識や実践が、大江スミの家政学の学問理解にどのように組み込まれ、日本の近代的な女子教育に組み込まれていったのかについて、より注視したい。1890~1910年代のイギリスの女子中等・高等教育では、「家庭科」教育の重要な一分野として、家庭内の生活環境の向上のため、換気(Ventilation)をはじめとする科学的な衛生(Hygiene)の知識と実践を学ぶことが求められた。同時期に、家庭外の公衆衛生への関心の高まりから、女性のための高等教育機関(ポリテクニク、女子カレッジなど)で公衆衛生のコースが設立された。大江スミが1905年に通った、ロンドンのベドフォード・カレッジの公衆衛生コース(1896~1918年)もその一つである。1896年のコース設立の目的、その教育的・社会的な意義、具体的な教育内容、卒業生の動向などを検証するため、まずはCOVID-19による中止となった現地での史料調査を令和2年度に改めて行いたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
COVID-19の拡大にともない、立教大学から要請を受け2019年2月29日~3月11日まで予定していたイギリスでの史料調査を中止した。そのため、使用を予定していた航空券代金、宿泊費、移動費、文献および資料の複写費が次年度使用額に回ることとなった。その後、都内での移動の自粛および大学図書館や文書館の休館により、3月の日本での史料調査も中止となり、文献複写代金や交通費などが使用されずに次年度使用額となった。今後はCOVID-19による海外渡航の禁止や都内の緊急事態宣言が解除された後に、中止された使用計画を再開したい。国内での史料調査としては、お茶の水女子大学歴史資料館にて、大江スミが東京女子高等師範学校の家政学教授を務めた時期(1907~1925年)の家政学関連の史料調査を行う。そして、イギリスでの史料調査として、【現在までの進捗状況】で述べた、2019年2月末~3月半ばに予定されていたロンドン大学ロイヤル・ホロウェイ・アーカイブズやロンドン・メトロポリタン・アーカイブズでの史料調査を行う。 国内外での学会報告のための渡航費・宿泊費・交通費としての使用も予定している。日本西洋史学会大会(於大阪大学)は2020年5月から12月に開催が延期されたが、個別報告を行う。イギリス教育史学会(於イギリス、バーミンガム大学)は2020年11月の開催予定であり、個別報告に応募を行いたい。
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