研究課題/領域番号 |
19K14253
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研究機関 | 岡山理科大学 |
研究代表者 |
紙田 路子 岡山理科大学, 教育学部, 准教授 (00782997)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | U理論 / 価値調整能力 / 公共的意思決定 / 応答責任としての対話 / 社会論争問題 / 価値学習 |
研究実績の概要 |
本研究は子どもの価値調整能力を育成する小学校社会科学習の授業構成について提案し, それに基づいた授業設計・実践を行うことで,小学校価値学習の改善を目指すものである。令和元年度(平成31年度)の 主な研究内容は,① 価値調整過程についての仮説の設定 ② ①に基づいた社会科授業 構成理論・授業モデルの構築である。①についてはC・オットーの「U理論」とガート・ビースタの他者への応答やかかわりの仕方と深く結びついているとする「対話」の理論を基に,①視座の転換②保留③リセット④再構築からなる「判断基準の転換のための社会科学習過程」を構築し,授業モデルの作成を行った。特に,社会論争問題,および価値判断学習において,合意形成,価値調整が困難であるのは,子どもが自己の価値判断基準を容易に手放さないためであるという課題意識に立ち、②保留③リセットの過程に焦点化した。公共的な意思決定(すなわち価値観調整)のためには,自らの思考の枠組みを手放すことができるような現場条件に基づく知識,すなわち「現場知」が必要であるという認識に基づき,社会問題に関わる様々な人々の「語り」に耳を傾け、自分の意思や考えが周りにどのような影響を与えるのか、また他者からの問いかけに対して、どのように責任のある返答ができるのかを組み込んだ授業設計を行った。 特に令和元年度は小学校教員だけでなく,中学校教員とも協力して「社会科が担う防災・減災教育の在り方 ―小学校第5学年単元「水害から考える減災」の設計を通して―」の授業設計を行った。この授業では2018年の真備町に水害の分析を通して,災害に関わる「正常性バイアス」に着目し,自らの防災意識の保留,リセットを目的とした。2020年度では,小学校,2021年度は中学校での実践を計画している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和元年度は,判断に関わる社会諸科学の成果をもとに,価値調整過程の原理を解明し,これに基づいた社会科授業構成論,および授業モデルを構築することを計画していた。計画通り,U理論,対話理論を基に,価値調整に至るまでの原理を仮定しそれに基づく社会科の価値学習過程を設定した。さらにこれを基に現場教員と協力して,小学校,中学校における授業モデル(「小学校第5学年単元「水害から考える減災」の設計を通して」等)を設計した。その成果を日本公民教育学会誌(2019年度),社会系教科教育学会で発表し,多くの共感を得た。
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今後の研究の推進方策 |
令和2年度は,令和元年度に構築した社会科授業の実践を目的としている。具体的 には,主に新学習指導要領において新しく設定された学習内容(防災)を教材化し,授業設計を行ったので現場教員と連携しその有効性について授業実践を通して分析したい。また,それと並行して子ども の価値調整過程を分析するための具体的な分析の枠組み,評価基準(ルーブリック)を設定する。 令和3年度はそのルーブリックをもとに授業実践分析を主に質的分析を通して行い,研究の有効性について検証する計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
物品費,人件費として,理論構築のための書籍代,授業開発のための教材代を計上していたが,令和元年度は,授業モデルの設計のみにとどまり,授業実践に向けての具体的な準備を行わなかったため,余剰が生じた。令和2年度は授業実践に向けての教材開発のための取材代や書籍代,合わせて地域のゲストティーチャーへの謝礼代等が必要になる。合わせて,令和2年は実践成果をアメリカのNational Council for the social Studiesや全国社会科教育学会等,国内の学会で発表したいと考えており,その出張旅費も計上したい。
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