自閉スペクトラム症の受身性の発達段階ごとの特徴を明らかにし,それらの知見をまとめあげ,発達プロセスの理解へとつなげていくことが本研究の目的である。昨年度までの研究により,PASASの全年齢版を作成した多サンプルの検討を実施する以前に,対応に苦慮している保護者・支援者の多い思春期の事例への知見を蓄積することが受身性の発達プロセスの解明にとって重要であることがわかってきている。特に,思春期は自閉症のカタトニア(緊張病)の好発期とも重なっており,思春期青年期のカタトニアへの支援に注力してみると,受身性の延長としてのカタトニアという仮説を抱かせる事例が散見されることがわかってき た。今年度は私がShah(2019)のPsycho-Ecological Approachを取り入れ,特別支援学校や他の支援機関との協働により,カタトニアに対する支援事例を児童青年精神医学会総会にて症例発表として公表することで、参加する児童精神科医をはじめとする支援者からの貴重な助言を得ることができた。私のアプローチに対してはおおむね好意的な評価をいただくことができ、本研究の波及可能性が示されたといえる。また、気分障害との鑑別など課題が浮き彫りになると同時に、子どもを支援する体制を整えることの重要性が明確となった。これらの研究より、自閉スペクトラム症の受身性の発達プロセスにおいては、子どもの要因だけに帰することは困難であり、家族との関わり、さらには支援者を交えたネットワークが深くかかわるものとして検討する必要があることが明らかとなった。
|