研究課題
本研究の目的は、摂食障害の集団家族心理教育を全国に普及するための標準プログラムとツールキットを開発し、効果を検証することである。当初はそのために、既存の心理教育を実施している団体からプログラムやテキスト、実施のマニュアル等を収集し、エキスパートコンセンサスにより汎用性の高いプログラムを開発することを目指していた。昨年までに、家族会の状況の把握し、一部の家族心理教育を行っている家族会への見学を実施し、コンテンツの収集と文献検討を進めた。その中で、COVID-19の蔓延による家族会の自粛、オンラインへの移行、その他大きな変化が起こっていたことが把握された。こうした自粛、変化の中でプログラムの標準化を行うのは困難であり、当初の研究計画を延期・修正せざるを得なかった。そこで、この状況下で実現可能な研究として、摂食障害の患者の家族同士が、集団及び1対1で家族でサポートしあうことのニーズを調査した。摂食障害の患者家族を対象とした無記名のアンケート調査を実施した結果、回答者314名のうち、178名(87.3%)が集団での家族同士の支えあいシステムが必要であると考えており、128名(40.8%)が実際に利用したいと考えていた。集団での支えあいのニーズは1対1の支えあいのニーズより高いことが分かった。このニーズ調査の成果を原著論文として発表した。また、オンラインで実施可能な、全3時間の家族教室プログラムを開発し、試験的に実施した。参加者へのアンケートの結果、家族心理教育はオンライン上でも実施可能であり、心理社会的サポートを提供するためには、オンライン上でも双方向の顔の見えるやり取りが重要である可能性が考えられた。ただし、オンライン上での家族心理教育の提供に関してはまだ試験的な実施にとどまっており、安全性や有効性に関して更なる研究が必要である。
3: やや遅れている
COVID-19流行の影響により集団で行う活動が難しくなり、多くの家族会が中断、変更を模索している状況にあり、既存の家族会の実態調査や見学に基づく研究の遂行は困難であった。したがって当初予定していた研究計画に関しては遅れが生じ、また変更せざるを得なかった。一方、摂食障害の家族同士の支えあいのニーズに焦点を当てた研究を遂行し、その結果を論文として発表できたとは価値ある成果であると考えられる。また、オンラインで行う家族心理教育を開発し指向したことも評価に値する。
これまで述べたように、ここ数年、リアルで行う集団活動の実施が困難であったことから集団家族心理教育の在り方に大きな変化が生じた。特にオンライン上での心理教育が一般化したことは大きな変化である。その状況では当初の研究計画に固執するより、オンラインでの家族心理教育の実施も含め、新たな心理教育の在り方を模索することも重要であると考えられる。従って、今年度はコロナ禍前後で生じた家族会の変化とその中でも変わらなかったことを把握する研究計画を立てている。具体的には、これまで把握した摂食障害の家族心理教育の実施機関へのアンケート調査を予定している。また、引き続きオンライン上での集団家族心理教育の開発及び効果の検証を行う予定である。
コロナ禍の影響により実施できなかった研究を遂行するため計画を延長した。当初の計画のうち、家族会の見学は引き続きコロナ禍の影響で実施できないものが多かった。また、学会の開催がオンラインとなり、海外の学会に参加できなかったため旅費の使用は当初の計画より少なかった。次年度の主な使用計画として、科研費研究員の雇用(週に1度の勤務)、アンケート調査の実施費用及び回答者への謝金、成果の学会及び学会誌での発表に関わる支出、心理教育を実施するための電子ディバイスの購入等を予定している。
上記サイトに本研究により収集した全国の家族会のうち、情報の公開を希望した会の情報を掲載している。また、摂食障害家族に対する心理教育的なコンテンツを公開している。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (4件) 備考 (1件)
BioPsychoSocial Medicine
巻: 17(1) ページ: 1-11
10.1186/s13030-023-00267-4
国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所年報
巻: 35 ページ: 194-194
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