本研究の目的は、舞踊行動の根底にある身体運動の階層構造を創作する能力の発達過程を明らかにすることである。本研究では、4つの主要な成果を得た。 研究1:質問紙調査研究から、生後1年以内の乳児期に原初的な舞踊行動が出現すること、および生後9カ月から12カ月にかけて乳児の舞踊行動の階層構造が複雑化することを明らかにした。 研究2:生後9カ月時点での舞踊行動の出現と喃語の出現の関係について、一般化線形モデルを用いて分析した。その結果、発達指数(運動姿勢、認知適応、言語社会)に関係なく、舞踊行動を表出していた乳児は、舞踊行動を表出していない乳児と比較して、喃語を表出している割合が高かった。この結果は、舞踊行動と喃語に共通するリズムの階層構造を産出する能力の存在を示している。 研究3:生後9カ月時点における舞踊行動の表出能力と、12カ月から24カ月時点の認知発達との関係を一般化線形モデルを用いて検討した。結果、生後9カ月での舞踊行動の出現は、生後24カ月での言語社会の発達指数に有意な影響を与えた。加えて、生後9カ月での舞踊行動の出現は、生後24カ月での語彙スコアと文の複雑さスコアにも有意な影響を与えた。これらの結果から、発達初期の舞踊行動がリズムの階層構造を創作する能力を促し、言語の発達に重要な役割を果たしていると考えられる。 研究4:乳幼児における身体運動のリズムの認知に関わる脳活動を検討した。NIRS装置を用いて、歩行動作の刺激を観察している間の脳活動を計測した。その結果、規則的な歩行刺激と比較して、不規則な歩行刺激の観察時に左下前頭葉付近の脳領域に強い活動がみられた。この結果は、身体運動のリズムの認知に左の下前頭葉付近の脳領域が関与している可能性を示した。 本研究の成果は、舞踊行動の根底にある身体運動の階層構造を創作する能力に関する発達モデルの枠組みを提供する点で重要である。
|