研究課題/領域番号 |
19K14594
|
研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
國谷 紀良 神戸大学, システム情報学研究科, 准教授 (60713013)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 感染症 / 数理モデル / COVID-19 / 基本再生産数 / 公衆衛生 / 年齢構造 / 時間遅れ |
研究実績の概要 |
2020年度は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行を受けて,研究の目的の一つであった「構造化感染症モデルを疫学的考察に応用し,感染症制御のための新たな知見を得ること」の観点から,COVID-19の流行データにモデルを適用する応用研究を中心に行った.具体的に,大規模検査隔離施策の有効性の検証,2020年4月-5月に実施された国内での第1回目の緊急事態宣言の防疫効果の検証,流行ピーク時における人工呼吸器の必要量の推定,海外(アルジェリア)における流行予測のためのパラメータ推定などを,数理モデリングの立場から行った.これらの研究では,COVID-19に対する各公衆衛生施策の効果を定量的に考察し,感染症制御を実現するための疫学的示唆を得た.特に,大規模検査隔離に関する研究では,検査の偽陽性・偽陰性の問題を考慮しながら,社会距離政策による経済への影響を緩和する上で,より経済への影響が小さいと考えられる検査隔離を併用することが効果的である可能性が示された.また,緊急事態宣言の効果に関する研究では,国内全体を一つの集団と見なす単純化されたモデルではあるが,感染率の減少の程度を推定することによって,同宣言中に社会的目標として提唱されていた接触機会の8割削減は達成されていた可能性が示された.その他,より理論的な研究として,年齢構造や時間遅れの効果を含む数理モデルの数学的性質の解析や,構造化感染症モデルの基本再生産数の数値計算手法の開発を行った.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
構造化感染症モデルの数学的解析と,モデルの疫学的考察への応用が本研究課題の主な目的であったが,本年度はCOVID-19という具体的な感染症を対象に,疫学的考察に関する多くの結果を得ることができたため.特に,流行初期における予測や,検査隔離,緊急事態宣言などの公衆衛生施策の効果の検証といった実情に即した問題に取り組み,研究成果を社会に還元することができたと考えられるため.
|
今後の研究の推進方策 |
本年度にCOVID-19への応用に用いたモデルは集団の異質性を考慮しない基本的なモデルであった.今後は,年齢,性別,位置などの集団の異質性を考慮できる構造化感染症モデルをCOVID-19等の実際の感染症に応用するための理論の構築を目指す.そのために,マルチグループ構造やネットワーク構造,拡散,時間遅れ,年齢構造などを含む多様な微分方程式系としての感染症モデルの数理解析を行い,それらの数学的性質を明らかにする.特にCOVID-19に関しては膨大かつ詳細なデータがインターネット上で容易に入手できる状況になったと考えられるため,それらを有効活用するための手法を開発し,研究成果の社会への還元を目指す.
|
次年度使用額が生じた理由 |
COVID-19の影響で出張旅費の使用がなかったため.次年度では主に電子書籍と電子論文の購読や,発表論文のオープンアクセス化,ホームページの外注等に使用する.
|