最終年度は,年齢構造化SIRモデルと呼ばれる感染症モデルに対して,流行強度の指標である基本再生産数Roが1より大きい場合に,感染症が風土病として定着する状況を意味するエンデミックな平衡解の存在と安定性を調べた.結果として,エンデミックな平衡解が不安定化して周期解が発生するホップ分岐が起こるための十分条件を得た.その他,年齢構造と空間構造をもつマラリアのモデルの大域安定性解析,時間遅れと免疫保持期間を考慮したSEIRモデルの大域安定性解析,再感染を考慮したSEIモデルに対する潜伏期人口と感染人口の分布を推定するためのオブザーバー設計といった各種問題に共同研究者とともに取り組んだ. 研究期間全体を通じて,年齢構造や空間構造などの構造を含む様々な感染症モデルに対し,基本再生産数Roの観点から,感染症の根絶と定着を意味する各平衡解の大域安定性に関する数学的結果を得ることができた.また,研究期間中に発生した新型コロナウイルス感染症の流行(COVID-19)にも対応することができ,研究計画で掲げていた疫学的考察に関連する内容として,隔離やワクチン接種などの介入の効果の検証を行い,その知見を医学者や経済学者などの他分野の研究者と共有することができた.今後は,人流データなどを用いてより精緻化された構造化感染症モデルを扱い,複合要因が流行動態に与える影響を明らかにすることを目指したい.またCOVID-19に関しては,過去に示したシミュレーションの妥当性を振り返って検証することで,将来の新たなパンデミックに備えた研究の質の向上を目指したい.
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