研究課題/領域番号 |
19K14818
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研究機関 | 国立研究開発法人防災科学技術研究所 |
研究代表者 |
久保田 達矢 国立研究開発法人防災科学技術研究所, 地震津波火山ネットワークセンター, 特別研究員 (70808071)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 地震 / 津波 / 海底圧力計 |
研究実績の概要 |
近年,海底における圧力変動のうち,海洋音響波の卓越周期(約10秒)より低い周波数帯域の圧力変動成分は海底の上下動加速度に比例することが理論的に示され,海底圧力計が海底上下動地震計として活用可能であることが示されつつある.本課題は,これまでの研究で着目されてこなかった海底圧力計の地震動成分を活用して,陸から遠く離れた東北沖の地震活動,特に2011年東北沖地震前後の地震活動の時間的・空間的な変化を詳細に明らかにし,東北沖地震を引き起こした東北日本沈み込み帯の地震発生場の状態を特徴付ける要素を詳細に明らかにすることが目的である. 本年度は,震源域の直上の地震動と津波を含む海底圧力記録を再現する数値計算手法の開発に取り組んだ.ここで開発した手法を2015年9月に小笠原海溝近傍で発生したマグニチュード6.0の地震に適用し,震源直上の地震動・津波を含む海底圧力アレイ記録を高精度で再現できることを確認した.また,2010年チリ地震時における日本近海の海底圧力計記録を解析し,海底圧力計の地震動シグナルの観測限界を評価した.さらに,本年度中に防災科学技術研究所のS-net広域・稠密観測網の海底圧力計データが公開され利用可能になったことから,S-netの地震・津波記録の解析にも着手した.2016年8月に岩手県三陸沖で発生したマグニチュード6.0の地震における水圧記録の解析を実施し,本地震と周辺で起こった地震活動との関連を詳細に明らかにし,S-net観測網の微小津波の検知性能を明らかにした. 次年度は,ここで得られた知見や開発手法を2011年東北沖地震本震や,その前後に発生した小さい地震に適用し,東北沖地震本震とそれらの微小地震との関連を詳細に考察する計画である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度に開発した地震動・津波を含む水圧変動の計算手法を2015年9月の小笠原海溝近傍の地震に適用し,震源直上の観測記録を高精度で再現できた.2010年チリ地震時の日本近海の海底圧力計の記録を解析し,地震波と津波の伝播プロセスを観測するには,海底圧力計が非常に有用であることを確認した.また,2016年8月の三陸沖地震のS-net広域・稠密海底圧力観測網記録の解析では,S-net海底圧力計による津波観測の性能を評価した.具体的には,バックグラウンドノイズの影響により各観測点単独の波形から津波を同定するのは困難であるが,広域・稠密である利点を活用して複数の観測点の記録を比較することで津波を同定可能になる.また震源のごく近傍にあるいくつかのS-net海底圧力計では,地震発生時刻に地震動でセンサ自体が回転してしまうことに起因する大きな水圧ステップが観測されるため解析を進めるにあたって注意が必要である.以上の解析手法・知見を踏まえると,海底圧力計の記録から実際の地震の震源パラメタの推定を行う準備は整ったと言える. 上記のデータ解析状況を鑑み,本課題は当初の予定通り順調に進展していると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
ここまでの解析で,東北沖の地震活動を詳細に把握するための基礎となる海底圧力計の地震動・津波成分を解析して地震の震源パラメタを詳細に推定する準備は整った.次年度は,ここで開発した手法を,東北大学によって2011年東北沖地震の前後に東北大学によって展開された海底圧力計や,防災科学技術研究所のS-netの海底圧力計の記録に適用し,東北沖地震本震やその前後に発生した地震の震源像に関するパラメタを詳細に求め,それらの関連を考察する予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
当初今年度中に受理される予定としていた論文の投稿・査読に時間がかかっているため.
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