研究課題/領域番号 |
19K14998
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研究機関 | 滋賀県立大学 |
研究代表者 |
井上 敏之 滋賀県立大学, 工学部, 講師 (90757709)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 非接触センシング / 信号処理 / FPGA / 生体センシング / ビームフォーミング |
研究実績の概要 |
我が国において加速化する少子高齢社会に対して,安心・安全な保育・介護環境の整備が急務となっている.非接触・非拘束で心拍や呼吸情報を検出可能な電波センサは,従来は検出範囲が狭く固定されているため,測定対象ごとにセンサを近接して複数台設置する必要があり,複数人に対して柔軟に計測を行うことが困難であった.本研究では,ビームフォーミング電波センサによる高感度睡眠計測システムを開発し,従来困難だった電波照射領域の制御を可能とすることを目的としている. ビームフォーミング電波センサ回路の開発を行った.ビームフォーミング回路は,電圧制御発振器(VCO),移相器,IQミキサ等で構成されるが,当該年度はそれらのうちVCO,移相器および移相量切替のためのディジタル回路の設計検討を行った.本研究ではリング型VCO構成を採用し,リングを構成する複数の差動増幅回路の各出力対から移相量選択器により2つの出力対を任意に選択することにより,異なる移相量を生成可能な仕様とした.また,移相量選択器を少数の入力信号により制御可能なディジタル回路の設計検討を行った.180-nm CMOSプロセスによりプロトタイプの試作を行い,オンウエハ測定によりその基本動作を確認した. 電波センサによる測定対象の位置推定を行うために,電子的方式であるビームフォーミングへの前段階として,機械的方式であるサーボモータを用いた電波センサの回転制御により,測定対象の位置推定を行うシステムの改良を行った.電波センサを一定速度で回転させ照射エリアを掃引して時間波形の変化をもとに位置推定を行うTモード,および一定角度で電波センサを静止させ受信信号を周波数解析し,異なるセンサ角度の解析結果との差異から位置推定を行うFモードを併用する構成により,位置推定精度の向上を達成した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実施期間3年のうちの2年間で,本研究課題のコア技術にあたるビームフォーミング回路技術の検討が順調に行われており,特に重要技術であるVCO,移相器および移相器を制御するためのディジタル回路の実機検証が完了している,また,ビームフォーミング回路が完成するまでの間に,ビームフォーミングを疑似的に実現するために,機械的方式であるサーボモータを用いた電波センサの回転によるビーム照射方向制御を行っており,センサ設置空間内に位置する対象者の位置および心拍・呼吸情報の取得が可能となっている.この知見はビームフォーミング回路の制御に応用が可能なものである.
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今後の研究の推進方策 |
本研究の完成に向けて,まず,当初目標であるビームフォーミング回路の24GHz帯での動作のために,全体回路の設計および試作・評価を行っていきたいと考えている.そのため,2年目での試作と比較して微細プロセスである65nm CMOSプロセスを使用した回路設計を行う.高精度なビームフォーミング実現に向けて,移相量分解能の向上,IQミキサにおける直交度の向上,高出力化と消費電力量削減手法の検討を行っていく.また,FPGAからの制御信号によりビームフォーミングが可能なシリアル通信I/Oの実装も検討する.ビームフォーミングの二次元化に向けて,回路規模増大という問題点に対する解決方法の検討を行う.機械的方式による検証も継続し,機械学習等を活用した測定対象の生体識別や,対象者が移動した場合の追従機能,複数対象がセンサ設置空間内に存在する場合の時間分割による一括モニタリング手法の実現方法の検討を行う.
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度は新型コロナウイルス感染症の拡大の影響を受け,自身および研究補助をしている学生の実験計画に変更が生じたため,当該年度に実施予定であった微細65-nm CMOSプロセスを使用したビームフォーミング回路の設計作製を取りやめ,動作周波数の目標仕様を満たすことはできないがより安価に機能評価が可能な180-nm CMOSプロセスを使用した回路設計作製に変更した.そのため使用額に余剰が生じたが,次年度には当該年度に実施予定であった微細65-nm CMOSプロセスを使用した回路設計作製を規模を大きくして実施する予定であり,余剰金が効果的に使用できるものと考えられる.
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