本研究は、東日本大震災による被災集落を対象に従前地区への帰還を促す要因に関する探究を通じて、人を繋ぎとめる場所の特徴を抽出することを目的に行ったものである。本研究の対象地は宮城県気仙沼市唐桑町大沢地区である。大沢地区は186世帯のうち132世帯が従前地区内で恒久住宅への定着を実現した。筆者らの研究活動は2021年日本建築学会賞(業績/復旧復興特別賞)を受賞し、住民と専門家チームの協働による復興モデルとして評価された。 本研究は、集落への帰還を実現するための実践的な側面とその背景や要因を探求する調査研究的な側面研究を伴わせている。その上で、調査研究的な側面から集落への帰還に焦点を当てることで、人をつなぎとめる場所の特性を抽出しようとするものである。 研究を行う前提条件となる震災以前に形成してきた集落の生活環境(意識・社会関係・地域空間・生活行為)について調査・整理を行い、集落が有する特徴や資源を導き出した。その後、集落への帰還において重要な要素となる居住地(住宅・土地利用など)とコミュニティ(多主体協働によるまちづくりの体制・情報共有の仕組みなど)を包括的に捉え、被災してから恒久住宅に至る居住動向と合わせて検証を行った。その結果、従前地区から距離が離れている時間が長期化すること、個別に避難・応急の生活をしている住民ほど帰還に対する意思が弱体化し、従前地区外に恒久住宅を構える傾向があることが分かった。また、本家や従前地区内における生業を持っていることなど震災後も従前地区における役割がある住民の方が帰還率が若干高い傾向にあることを導き出した。最終年度では、これらの調査研究を踏まえて、他事例へと応用するためのモデルとなる要素の抽出を行った。
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