研究課題/領域番号 |
19K15423
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
大久保 喬平 東京理科大学, 基礎工学部材料工学科, 助教 (20822951)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ナノ加工技術 / 金属ナノ粒子 / プラズモニクス / 共振器 / 近赤外光 |
研究実績の概要 |
本年度は、窒化シリコン/シリコン基板上への金属ナノ粒子アレイ構造の形成に取り組んだ。これを実現する作製手法は高精度なトップダウンプロセスとナノ鋳型を用いた自己組織的ナノ構造形成に基づくボトムアッププロセスの融合であり、メタマテリアルおよびナノ光学における有用なデバイス形成技術となる。ナノ鋳型を利用した作製技術はディウェッティング(dewetting)現象との組み合わせにより1次元および2次元の平滑な金属ナノ構造表面構築へと展開可能である。 窒化シリコン層(厚さ40 nm)を形成したシリコン基板上に電子線リソグラフィーと反応性イオンエッチングを用いてナノ鋳型を形成した。金属ナノ粒子の粒径・位置制御に関わるナノテンプレートの作製には、電子線リソグラフィーにおける厳密なドーズ量最適化が必要であった。パターン角とそれ以外の領域のドーズ量を個別に最適化することで縦150 nm・横200 nmのテンプレートパターンが作製できた。反応性イオンエッチングによるSiN層のパターニングを行い、2次元アレイ化したナノテンプレートの間隙に深さ100 nmのV字溝を形成した。続いて、電子線蒸着を用いた金属成膜により、厚さ15 nmの金薄膜をナノテンプレート上に形成した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ナノテンプレートを用いた金属ナノ粒子集合体は、負の屈折率を実現するメタマテリアル表面のみならず、高感度バイオセンサへの応用可能性が提唱されている。従来マイクロ波・ミリ波を狙いとした構造設計・実証がなされてきたが、ナノ加工技術の進展と共により波長の短い近赤外波(波長1000-2500 nm)の利用が注目されている。数値計算に基づく新規な材料・共振器設計が提案されているが、デバイス作製と計測に裏付けされた報告は限られている。 本計画策定当初は、可視域の電場増強を目指し、倒立顕微鏡を用いた計測に向けた水晶基板上でのナノ加工を想定していた。しかし、近赤外域に共振周波数を持つ7量体(ヘプタマー)共振器の設計へと方針を変更した。波長1000 nm以上の光はシリコン基板に対して透明なので、水晶基板上で加工を行う必要はない。したがって、すでに加工技術の確立しているシリコン/窒化シリコン基板系での作製プロセスの最適化・共振器設計に取り組んでいる。2次元アレイ化したナノテンプレート基板作製のプロセス最適化は順調に進んでおり、残るステップはボトム・アップ型の金属ナノ粒子自己組織形成である。ナノ粒子形成プロセスでは窒素雰囲気下での高温加熱による粒界の少ない粒子を作製するために、管状電気炉の調整を行っている。 2019年度末は新型コロナウィルスに伴う研究機関の一時的な閉鎖が起きた。本研究は微細加工装置群を有する学外のクリーンルームの利用抜きには進めることが困難である。複数の外部研究機関の利用を想定し、研究計画の再考が必要である。
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今後の研究の推進方策 |
本研究における主要な課題は、金属ナノ粒子の厳密な位置制御である。七量体中の粒子表面間の距離を5-10 nm程度に制御することで、近赤外域における共振吸収が観測可能になる。ナノテンプレート上のナノ粒子はその後の金属成膜によって粒子位置が変わらないと予想される。2020年度以降は粒子位置を保ちながら粒径のみを増大させるために、金属成膜とディウェッティングの繰り返しによるギャップ間隔狭小化に取り組む。また、2種合金のナノ粒子は低い熱損失に伴う高い共振性能を示すと報告されている。本研究のハイブリッドナノ加工技術により金属多層膜(Au, Ag, Cu, etc.)を用いた合金ナノ粒子集合体の形成を目指し、合金の種類・混合比・加熱温度/保持時間の異なる条件下で作製したデバイスの特性評価に取り組む。 新型コロナウィルスに伴い閉鎖した研究機関の再開は現時点で目処が立っていない。現在利用可能な装置群の利用のみでは2020年度の研究進行に一定の遅れをもたらす事が予想される。トップダウン型ナノ加工技術として電子線リソグラフィに代替する加工技術を模索する必要がある。ナノ球体リソグラフィーに代表されるボトムアップ型の手法を取り入れる事で簡易かつ大面積の加工に適するプロセス技術の開発を視野に入れて研究を進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度中に学会発表を行わなかったため、助成金に残額が生じた。翌年度は前年度の残額分を外部研究機関の共通機器使用料と業務委託に係る人件費に充てる予定である。
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