研究実績の概要 |
本年度の実施研究では, 遷移状態を制御可能な配位空間(反応場)を有するロジウム四核錯体の開発とその錯体を使用した高効率な水の光還元反応(水素発生反応)を具現化するために、1)新規アーチ型ジカルボン酸有機配位子の合成と同定, (2)(1)にパドルホイール型ロジウム二核錯体を2ユニット連結したロジウム四核錯体の開発と同定、(3)電気化学的(ポテンショスタットを使用)および光化学的(光増感剤と犠牲還元剤を使用)な水の分解実験に関して実験を行なった。 まず(1)に関しては、新規なアーチ型ジカルボン酸有機配位子(AL)を7-bromo-1-tolueneを出発物質として3段階の反応を行うことで合成した。合成したALは、1H NMR, ESI-TOF-MS、元素分析、FT-IRで同定した。次に(2)では、ALと2倍等量の酢酸ロジウム二核錯体[Rh2(O2CCH3)4]を高温条件下で反応させ、得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーを使用して精製することで目的とするロジウム四核錯体[Rh4(O2CCH3)6(AL)]錯体を得た。最後に(3)においては、酢酸滴下条件下でのCyclic voltammetry(CV)測定から、開発したロジウム四核錯体が水素発生機能を有していることが確認でき、更には、シクロメタレート型イリジウム錯体[Ir(ppy)2(bpy)]PF6(光増感剤)とトリエチルアミン(犠牲還元剤)を共存させた人工光合成システムを使用して水の可視光分解反応を実施したところ、原料である酢酸ロジウムよりも高効率な水素発生を示すことが確認できた。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度の筆者の研究により, アーチ型ジカルボン酸有機配位子(AL)とそのロジウム四核錯体[Rh2(O2CCH3)6(AL)]の合成方法と同定手段を確立することができた。よって本年度は, レドックス活性な有機配位子であるビピリジンやターピリジン配位したロジウム二核錯体がアーチ型ジカルボン酸で連結されたロジウム四核錯体の開発, 同定, 水素発生反応を実施する。また、筆者の昨年度の研究(Y. Kataoka, et.al. ChemCatChem, 2019, 11, 24, 6218-6226)から、電子吸引性であるトリフルオロ酢酸がロジウム二核錯体に配位すると, 水素発生過電圧を低くすることが可能であることが確認できたため、それらの錯体をアーチ型ジカルボン酸で架橋したロジウム四核錯体[Rh2(O2CCF3)6(AL)]の開発と水素発生反応への応用も行う予定である。さらには、開発したロジウム四核錯体の詳細な水素発生反応機構を調査するために, 密度汎関数(DFT)法を使用して解析も実施していく予定である。
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