研究課題/領域番号 |
19K15675
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
影島 洋介 信州大学, 工学部, 助教 (20821846)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 電極触媒 / 光電極 / 燃料電池 / セルロース / バイオマス |
研究実績の概要 |
バイオマス系廃棄物の大部分を占めるセルロースを、改質プロセスを介さずに直接燃料として用いることは、バイオマスエネルギーを有効利用するうえで望ましい。しかし、セルロースは一部の溶媒を除くほとんどの溶媒に不溶であり、液相での反応の知見が乏しく、そのため無機材料ベースの不均一系触媒から成るエネルギー変換デバイスはほとんど報告されていない。本研究課題では、液相中セルロースを(光)電気化学的に直接酸化分解可能な(光)電極触媒を開発するとともに、バイオマス(光)燃料電池の構築を目指した。 まず各種金属電極触媒のセルロース酸化反応に対する活性を評価すべく、白金、金、パラジウム、ニッケルディスク電極の、セルロースを溶解させた強塩基水溶液中での電気化学特性を評価した。すべての金属電極において、セルロース存在下では1.23 V vs. 可逆水素電極(VRHE)よりも卑な電位でセルロース酸化に起因する酸化電流が確認された。また、セルロースの濃度やNaOHの濃度が電気化学特性に与える影響についても評価した。 他方、光電極を用いた光燃料電池の構築に関する初期検討として、TiO2光電極上に塗布したセルロース薄膜の光電気化学的な酸化反応についても併せて評価した。イオン液体に溶解させたセルロースをTiO2光電極表面に塗布、イオン液体を除去することでTiO2光電極表面に固体のセルロース薄膜を堆積可能である。TiO2光電極をセルロース酸化の触媒として用いることで、前述の光を用いない系に比べて発電特性を大幅に向上可能であることを見出した。また、液相中セルロースの光電気化学的酸化分解反応に関する検討も開始した。 これらの成果の一部はすでに国内学会・国際学会において報告しており、電極触媒、及び光電極を用いた系のどちらにおいても、近いうちに国際学術誌へ投稿できる見通しが立っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
電気化学的、及び光電気化学的なセルロース酸化分解反応どちらにおいても、これまで明らかになっていなかった反応過程に関する新たな知見が得られつつあると同時に、(光)燃料電池を設計するにあたり今後の指針となり得る情報が得られている。 光を用いない電極触媒の系では、各種金属ディスク電極を用いた検討により、触媒する金属種によってセルロース酸化挙動が大きく異なることが分かった。ニッケルは比較的貴な電位において、金は卑な電位で高い電流を示したが、1.0~1.3 VRHE付近の電位領域において金属種の還元に由来する特徴的な還元電流が見られ、オンセット電位の低下が見られた。比較的安定な白金を用いた場合に良好な電気化学特性が得られることが分かった。 他方、セルロース薄膜を塗布したTiO2光電極の系では、反応後溶液の液体クロマトグラフィーや赤外吸収(IR)を用いた解析により、比較的炭素鎖の短いカルボニル系中間生成物を経て、CO2まで完全分解可能であることも見出した。これはTiO2の光励起正孔が高い酸化力を有することに起因すると考えられる。また、強塩基水溶液中に溶解させたセルロースを反応物とした光燃料電池に関する検討も既に開始している。ここで、固相のセルロースを反応物とした際はTiO2と接触した反応物の消費に伴う急速な光電流値の減少が見られたが、液相セルロースの場合ではフレッシュな反応物が連続的に供給されるため、安定的な光電流値が得られることが分かった。反応溶液のIRによる解析から、グルコース骨格の経時での減少も確認できている。 以上の成果から考えて、当初の計画以上に進展していると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
セルロース酸化用電極触媒の開発に関しては、多孔性基材の使用による幾何面積当たりの活性点の増大、及び複数金属種の合金化による電流値の向上を予定している。多孔性基材の使用に関しては、既にNiフォームを用いることで、ディスク電極を用いる場合よりも幾何面積当たりの電流値を大幅に向上可能であるという予備的なデータを得ている。今後はNiフォームに対する効果的な触媒種の担持手法の検討が必要になる。また、ディスク電極を用いた検討から比較的安定な白金を用いた場合に良好な電気化学特性が得られることが分かっており、まずは白金をベースとした合金触媒の開発から着手することが妥当と考えられる。 強塩基水溶液中に溶解させたセルロースを反応物とした光燃料電池に関する検討も既に開始している。まずは反応生成物の詳細な解析を行うことで、TiO2をモデル光電極として用いた場合における反応過程の解明を目指す。その後、電極構造の改善や、光吸収層として用いる半導体材料の代替により、更なる光電流値の向上を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年度の進捗状況と2020年度の検討計画を鑑み、電極類等の物品購入用として電気化学測定系の拡充に充てることを予定していたが、年度末におけるコロナ禍の影響による発注業務・研究遂行・学生の登校の一部停止を考慮し、次年度に持ち越すこととした。研究活動が十分に再開した際の状況を見て、当初予定に従って電気化学測定系の拡充を図る予定。
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