研究課題/領域番号 |
19K15698
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
真木 勇太 大阪大学, 理学研究科, 助教 (00805559)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 糖タンパク質 / 糖鎖 / フォールディング / 抗体 |
研究実績の概要 |
抗体はアスパラギン(N)結合型糖鎖が付加した糖タンパク質であり、基礎研究や創薬などに幅広く用いられる重要な生体高分子である。Immunoglobulin G (IgG)抗体には軽鎖と重鎖があり、これらはジスルフィド結合によってつながっている。さらに、2つの重鎖同士がジスルフィド結合によって連結しており、1つのIgG抗体中には2つの軽鎖と2つの重鎖が含まれる。抗原認識に重要な部位はFab領域と呼ばれ、ここには重鎖の一部と軽鎖全体が含まれる。一方、IgG抗体において受容体と結合する部位はFc領域と呼ばれ、このFc領域は重鎖のC末端側部分からなる。Fc領域の重鎖にはN結合型糖鎖があり、この糖鎖は抗体依存性細胞傷害(ADCC)活性に大きく影響することが知られている。 IgG抗体のような大型糖タンパク質を簡便に合成することは未だ容易ではなく、またIgG抗体が持つN結合型糖鎖の機能解明は未だ十分ではない。これまでに、IgG抗体を哺乳動物細胞によって発現し、その後に糖鎖構造を改変する研究は行われてきたが、化学合成を基盤としたアプローチは行われてこなかった。また、フォールディングの追跡が生化学的に検討されてきたが、フォールディングにおけるN結合型糖鎖の必要性や果たす役割は未だわかっていない。 そこで本研究では、まずN結合型糖鎖を含んだFc部位糖ペプチドの半合成と、それを用いたフォールディングの検討を行った。Fc糖ペプチドは約200アミノ酸からなり、これを4つのペプチドセグメントに分割した。これらセグメントを従来の固相合成法や大腸菌発現を用いて調製し、全てのセグメントを天然のアミド結合で連結していくことでFc糖ペプチドを調製した。さらに、得られた糖ペプチドを用いて、段階透析法によるフォールディングを検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定通り、Fc領域の糖ペプチドを合成し、この基質を用いてフォールディング反応を検討することができた。 まず、重鎖の二量化に重要なヒンジ領域からC末端側にかけて、214アミノ酸からなるFc糖ペプチドを合成した。全長糖ペプチドは4つのセグメントに分割した。その内、119アミノ酸からなるC末端側のペプチドは糖鎖を持たないため、大腸菌発現を用いて簡便に調製した。他の糖ペプチドや、糖鎖を持たない短いペプチドは従来のBoc固相合成法を用いて調製した。今回、生体試料から大量に調製できる、ヒト型のアシアロ複合型糖鎖を用いて合成を行った。全てのセグメントを得たのちに、一般的なペプチド連結反応であるNative Chemical Ligationを用いた連結反応を検討した。これは、中性緩衝液中で、天然のアミド結合でペプチド同士を連結することのできる反応である。検討の結果、3回の連結反応によって4つのセグメントから1つの全長糖ペプチドを合成し、逆相高速液体クロマトグラフィー(RP-HPLC)を用いて単離精製した。さらに、質量分析法(MS)やポリアクリルアミド電気泳動(SDS PAGE)によって目的の糖ペプチドであることを確認した。以上により、Fc領域の合成ルートを初めて確立することができた。 続いて、得られたFc糖ペプチドを使い、段階透析法によるフォールディングの検討を行った。まずペプチドを高濃度の変性剤を含んだ緩衝剤に溶解し、システインとシスチンを含んだ酸化還元条件下でジスルフィド結合の形成を促した。さらに変性剤を徐々に抜くことで、天然の三次元構造の形成を検討した。これまでにLC-MSやSDS-PAGEさらに、ウエスタンブロッティングを用いて追跡する方法を検討した。現在、ラットの肝臓から単離した小胞体画分を用いたフォールディングやフォールディングにおける糖鎖の影響を調査中である。
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今後の研究の推進方策 |
Fc糖ペプチドについては、さらにゲルろ過カラムを用いた追跡法の検討や、種々のフォールディングシャペロンを使った反応条件を検討する。また、糖鎖の影響を調べるために、糖鎖のないペプチドや、またハイマンノース型糖鎖を持つ糖ペプチドでのフォールディングを検討する。 また、当初の予定通り、FcだけでなくFab領域の合成を進める。Fab領域の軽鎖および重鎖は糖鎖を持たない。そこで、約200アミノ酸からなる軽鎖は大腸菌発現を検討する。また、同じく200アミノ酸程度からなる重鎖部分についても効率的な大腸菌発現法を確立する。このFab領域の重鎖に関しては、Fc領域とアミド結合で連結しなければならないため、大腸菌発現後にC末端を選択的に活性化する条件を検討する。発現後にC末端をチオエステル体への変化し、Native Chemical Ligationによる連結反応を検討し、重鎖全長を得る予定である。 軽鎖と重鎖を調製後は、段階透析法や種々のシャペロン、さらにラット由来の小胞体画分を使ったフォールディングを検討する予定である。
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