研究実績の概要 |
2019度は、報告者が見出したGH3阻害剤の標的選択性を評価するため、オーキシンの代謝活性があると言われている4種の酵素遺伝子(GH3, DAO1, IAMT1, UGT84B1)を過剰発現する組換えシロイヌナズナを用いて、生物試験を行った。GH3, IAMT1, UGT84B1を過剰発現させた植物ではオーキシン欠乏を示す表現型が見られたのに対し、DAO1を過剰発現させた植物では野生型と比較して顕著な表現型の違いは見られなかった。これらの植物に対し、GH3阻害剤を処理すると、GH3過剰発現株でのみオーキシン欠乏からの回復が見られ、野生型と同様の形態を示した。また、DAO1過剰発現株ではGH3阻害剤処理により、オーキシンの蓄積を示す表現型が観察され、GH3阻害剤に対して野生型と同程度の感受性を示した。これらの実験から、GH3阻害剤はGH3酵素のみを選択的に阻害すると考えられ、またDAO1酵素のオーキシン代謝活性は他の酵素に比べて非常に低いと考えられた。 次に、GH3阻害剤により誘導されるオーキシン蓄積を示す形態が、内生のオーキシンの蓄積に依存することを確かめるため、オーキシン生合成遺伝子の欠損株と、生合成阻害剤を共用して実験を行った。その結果、オーキシン生合成遺伝子の欠損株ではGH3阻害剤によるオーキシン形態が緩和され、未処理の野生型と同程度の形態を示した。オーキシンレポーターラインを用いて予備的な検討を行ったところ、GH3阻害剤処理後1時間程度でレポーターラインの応答が見られたことから、GH3酵素を阻害すると比較的短時間で内生のオーキシンが蓄積することを示唆する結果と考えられた。また、大腸菌を用いて作成した組換えGH3酵素を用いた実験でも、GH3阻害剤が酵素反応を阻害することを確かめた。
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