2020年度は、大腸菌を用いて合成した組み換えGH3タンパク質を用いて、開発したGH3阻害剤の速度論的解析を行なった。その結果、GH3阻害剤は基質であるIAAと拮抗的にGH3タンパク質に結合し、阻害定数Kiは最低で0.3 nMであり、GH3酵素の種類にもよるが数nMから数十nMであった。したがって、GH3酵素に対するIAAのKmが数μMから数十μMであったことから、GH3阻害剤はIAAよりも非常に低い濃度でGH3酵素に結合し、阻害することが明らかとなった。 2019年度の実験結果から、オーキシンの代謝酵素GH3の阻害剤を植物に処理すると、比較的短時間で内生のオーキシンが蓄積することが示唆されたため、2020年度はさらに詳細に調べることとした。GH3阻害剤を処理して10分、30分、60分、180分で植物をサンプリングし、オーキシン応答性遺伝子の発現量を比較したところ、30分からオーキシン処理と同等の遺伝子発現上昇が観察された。さらに、GH3阻害剤処理後10分、30分、60分で植物をサンプリングし、根のオーキシン内生量を定量したところ、処理後たった10分で未処理と比較して2倍に蓄積することが明らかとなった。このことは、GH3が定常的なオーキシンの代謝を担っていることを強く示唆する結果であり、これまでのDAO酵素を中心とするオーキシン代謝経路図を書き換えられる結果であった。 2020年度後半は、論文を執筆のためにマテリアルデータや各種試験の不足するデータの取り直しを行なっていたため、論文自体の執筆は研究期間内に終えることができなかった。
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