昨年度までに実施したMicrococcal nucleas-sequence解析およびRNA-sequence解析を基盤としたマルチオミクス解析の結果から、リンゴ‘ふじ’の芽の自発休眠を制御する因子として、ジャスモン酸を含めた脂質代謝を中心に、低温・低酸素・アブシシン酸および糖代謝の5つの因子を特定した。さらにこれらの因子の制御に関わる遺伝子群のプロモーター領域において、MADS-boxタンパクの結合領域が11月から12月にかけて表出していることも確認してきた。したがって脂質代謝を中心としたリンゴ‘ふじ’の芽の自発休眠を制御する遺伝子群の発現が、MADS-boxタンパクによって調節されている可能性が考えられた。そこで本年度はこれらの遺伝子群の発現を一括で調節するMADS-boxタンパクについて解析を行った。リンゴゲノムデータベースを探索し、MADS-boxタンパクをコードする遺伝子配列を取得したところ、124個のMADS-boxタンパクがリンゴゲノム上に存在することを確認できた。これらのMADS-boxタンパクについて、細胞メモリー(クロマチン構造の変化)の観点から発現応答を精査したところ、5個を有力な候補をスクリーニングをすることができた。加えてこれらの候補についてその発現パターンをリアルタイムPCR法にて解析したところ、DORMANCY ASSOCIATED MADS-boxおよびAGAMOUS-like 79と呼ばれるMADS-boxタンパクが自発休眠の相転移とよく一致することを明らかにした。すなわちこれらのMADS-boxタンパクが協調的に働き、脂質代謝を中心としたリンゴ‘ふじ’の芽の自発休眠を制御する遺伝子群の発現を調節することで、脂質シグナルが変化して冬の長さが認識されているという生理メカニズムの存在が予測できた。
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