マツノザイセンチュウ(以下、線虫)を病原体とするマツ材線虫病は、マツ類樹木に枯死を引き起こす深刻な樹木病害であり、防御応答の過剰誘導により樹木全体 が枯死すると考えられている。分子生物学的技術を使った大規模な研究により、線虫病原因子の候補が徐々に明らかとなってきているが、分子機能解析手法の不 足により病原因子の特定には未だ至っていない。私たちの研究チームは初年度に、木本類への外来遺伝子発現を可能にするALSV (Apple latent spherical virus)べクターを利用して、線虫由来の病原候補タンパク質をクロマツ種子の胚に一過的に発現させる系を確立した。その後、クロマツ種子胚に線虫を直接接種した際のPR遺伝子の応答を調査した。本課題研究では確立した手法を用いてマツノザイセンチュウが分泌するソーマチン様タンパク質及びGH30が、マツ種子胚に対して顕著に防御応答を誘導することを明らかにし、得られた成果は原著論文として2022年度にFrontiers in Plant Science誌に掲載された。最終年度には、この手法の不安定性の原因となっているウイルス感染量の安定化を目指し、感染手法と解析手法の両面から検討をしたが大きな改善は見られなかった。最終的に、当初の目標としていたALSVを用いたVIGS手法の確立には到達できなかったが、その基盤となるクロマツ種子胚を用いたアッセイ系を確立でき、論文として報告できたことは今後につながる重要な成果であると考えている。
|