研究課題/領域番号 |
19K15918
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
浜野 充 信州大学, 学術研究院農学系, 講師 (30626586)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 実践的農業教育 / 持続的農業技術 / 中等教育における技術教育 / 参加型教育改善 |
研究実績の概要 |
本研究は,ネパールで2014年より中等教育に導入されはじめた農業教育に焦点を当て,実践的農業教育体制・指導方法を構築し、開発途上国の農業教育・普及に対する効果的な教育協力の実施方法を提案することを目的とする。ネパールの標高差による地理的・気候的環境の違う3地域において,研究対象校を選定する。基礎的な農業教育の内容とともに,それぞれの地域の自然環境や農業技術,栽培作物,食文化,自然資源管理や利用法,流通を含めた経営環境などの実情に合わせた教育コンテンツが盛り込まれるかどうかが,実践性を高めるカギとなる。 2019年度は,当初の予定通り,3つの地域において調査対象校を選定し,調査協力体制の構築を目指した。最初に,JICA草の根技術協力事業(2016年~2018年)において,教育体制や指導方法の現状と課題を抽出した,高冷地域(山間地域)に位置するムスタング郡の学校と協議を行い,教員関係者と調査継続の合意を得た。国内・ネパール関係者と連携し,亜熱帯地域(タライ平野)であるチトワン郡と,温帯地域(丘陵地域)に位置するカブレ郡で一校ずつ選定し調査協力の合意を得た。 調査実施について,JICA草の根事業で獲得した情報を整理し分析をすすめるとともに,ムスタング郡K校において課題抽出を実施した後の指導方法の改善についてモニタリング調査を実施した。K校周辺で生産される農作物や農業技術についても調査を行った。国内でそれらのデータの取りまとめ・学会報告・論文作成を行った。 新しく選定した2校において,教育体制の実態と課題抽出を行うための事前調査を3月初旬に実施する予定だったが,新型コロナウィルス(COVID19)感染拡大の影響でネパールへの入国ができなくなり調査を開始できなかった。引き続き,現地の関係者とe-mailなどで連絡を取りながら関係を維持し,終息した後に調査を再開する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
調査対象校として,ネパールの標高差による気候の違う3地域において,それぞれ調査協力校を選定し協力の同意を獲得できたことは,本研究を行う上で重要なステップであった。COVID19感染拡大の影響がありつつも,国内・ネパールの関係者と密な連携を行い,調整・交渉の末,調査協力の合意を得ることができた。 これまで,JICA草の根技術協力事業「ネパール農業高校における農業教育強化事業」において事業対象校としたムスタング郡のK校での調査では,ネパール教育省が作成した農業教育課程(Plant Science Stream)において,カリキュラムの内容は亜熱帯,温帯,高冷地の栽培作物を包括的にカバーしつつ,農業の基礎理論や実習を学ぶための授業編成がされている。学校では,地域で農業を営む家庭から生徒が学びに来ている。しかしながら,教育現場では,授業での講義・実習の内容が地域の農業と関連付けられておらず,教科書や地域の農業生産に沿った教材も整備されていなかった。教員も他地域から配置されており,地域の農業に関しては知識が少なかった。2019年の調査においては,教育改善方法として地域の農業を教員と学生がともに地域に出て観察・インタビューから情報を獲得し現地の農業(生徒の家の農業含む)を体系的に学ぶとともに,地域の農業課題や栽培作物・品種を栽培試験に取り入れるなどの教育方法の改善が実施されていることが確認された。 しかしながら,他の2地域の農業教育の実態は,COVID19感染拡大の影響で,調査が開始できなかったため,当初予定していた教育体制や指導方法の現状把握や,ムスタング郡他対象校との比較分析を実施できなかった。これらの実態把握は2020年度以降の調査目標としたい。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度は,新型コロナウィルス感染拡大による影響から,しばらくネパールに入国できないことが予想される。引き続き,文献調査やWeb会議システムを活用したコミュニケーションを試みる予定である。しかしながら,ネパールではロックダウンが続いており,まだWeb会議システムの導入は進んでいない。メールのやりとりでは限界があるため,ネパール国内の状況が戻り次第,さらにコミュニケーションを深め,新たな調査対象校2校とも調整を行いたい。 本研究では,アクションリサーチの手法をとるため,教育課題の抽出や,課題改善のためのアクションプランの作成・実施,モニタリングによる評価や,教員・学生の意識や実践の変化の把握については,現地での密なファシリテーションによるフォーカスグループディスカッションや,踏査や参与観察を含めた現地での調査実施が不可欠となる。そのため,現地での調査実施に向けた準備を,国内・ネパールの関係者とすすめ,COVID19の感染拡大が終息したらすぐに,現地での調査を再開する予定である。 調査が再開された場合には,引き続き,新しい2校の関係教員に対して,アクションリサーチのアプローチと具体的な調査方法を説明するとともに,現地での教育の現状の把握に努める。課題抽出のためのグループディスカッションや,対象校同士の相互訪問による授業観察や地域の農業視察を実施し,教育課題の抽出を効果的に実施できるようにすすめていきたい。同時に,対象校での教育の実践について記録やモニタリングを教員間で実施し,調査者と定期的に共有できる体制作りを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナウィルス感染拡大の影響から,予定していた2019年度終盤のネパール渡航ができなかったこと,また,必要な資機材の購入が現地でできなかったため,次年度使用額が生じた。コロナウィルス感染拡大の問題が解消次第,現地に赴き,調査を開始し,必要な資機材も購入する計画である。
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