研究実績の概要 |
哺乳類初期胚は受精後全能性を獲得するために一細胞期にダイナミックな変化を起こし、その後細胞分裂を経るに従いあらゆる細胞に分化し1つの個体となる。この個体発生の起点となる一細胞期に起きる現象は他の細胞に類を見ない特異な現象であるため、不明な点も多い。詳細な解析が難しい理由の一つに1細胞期は雌雄ゲノムがそれぞれ前核として別々に存在していることがある。別々に存在しているからには異なる遺伝子発現をしていると考えられるが、1つの細胞内に存在するため、それぞれの遺伝子発現を特異的に制御し、なおかつ解析およびその後の発生を調査する方法がこれまでなかった。そこで本研究では1細胞期の雌雄ゲノムを半数体の状態で別々に作製し、2細胞期に融合することで1つの2倍体胚とする雌雄半数体融合胚生産方法を検討し、1細胞期に別々の転写制御処理を可能とし、1細胞期における雌雄ゲノムの機能差を調査することを目的とした。 雌核発生胚(hPa胚)は塩化ストロンチウムによる人為的活性化で作出し、雄核発生胚(hAn胚)は卵子の紡錘体を除去したのち、精子の顕微注入により作製した。2細胞期に発生したhPa, hAn胚の片割球を顕微操作によりそれぞれ置換しセンダイウイルスを用いて融合し、2倍体胚とした。作製した2倍体胚は、胚盤胞期まで培養もしくは卵管移植により発生率、産仔率を検証した。融合操作を行わずに培養したhPaおよびhAn胚の胚盤胞期への発生率が約40%、10%であったが、融合した胚では90%以上の胚が胚盤胞期まで発生した。また、驚くべきことに、卵管移植による産仔率は70%であり、体外受精卵とほぼ同様の割合であった。次にDRBにより1細胞期の転写を抑制した雌雄発生胚を用いて融合胚を作製し、発生率を調査すると、雄核発生胚の転写を阻害した場合に以降の発生が停止することが明らかとなった。
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