トランスポゾンとはゲノムに寄生する反復性の配列であり、転移、増殖することができる配列である。トランスポゾンは宿主にとって潜在的に有害な因子であり、DNAメチル化などのエピジェネティックな制御のもと抑制されているが、ゲノム進化にも大きく貢献することが知られている。しかしトランスポゾンと宿主の相互作用の分子実体は未だ不明な点が多い。 本研究の目的は、茎頂分裂組織(SAM)で生じるトランスポゾンと宿主の相互作用の分子実体、すなわちSAMにおける(1)トランスポゾンの発現制御の遺伝的基 盤、(2)トランスポゾンによる宿主への影響について明らかにすることである。これを達成するため、本研究では栽培イネおよび野生イネを材料に、種間や系統間でトランスポゾンの分布やSAMにおけるエピジェネティックな状態が異なる領域をゲノムワイドに同定し、宿主の遺伝子発現パターンや発生制御に与える影 響を比較する。 2022年度では、雑種強勢を示すことが知られている栽培イネと野生イネの交雑F1個体について、昨年度取得したシーケンスデータ解析を行った。その結果、F1個体においてはエピジェネティックパターンは両親系統の状態を維持している一方、F1個体特異的な遺伝子発現パターンが見られた。また、SAMにおけるエピジェネティックランドスケープを明らかにするために、微小組織を用いたクロマチン修飾検出系の条件検討を行った。 さらに、野生イネ由来の染色体を持つ栽培イネのゲノム構造を明らかにするために、PacBioシーケンサーによるHiFiリードの取得およびゲノムアセンブルを行った。
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