研究課題/領域番号 |
19K16114
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
芝井 厚 国立研究開発法人理化学研究所, 生命機能科学研究センター, 研究員 (40823620)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 実験進化 / 大腸菌 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、細菌の突然変異率と進化能との関係を説明する原理を発見するため、様々な変異率の大腸菌を増殖阻害剤添加環境で適応進化させ、その動態を観察することで進化能の違いを定量することである。変異率が高いほど薬剤へ適応するための有益変異は多く生ずるはずであるが、同時に有害な作用を持つ変異による増殖阻害の効果もあるため、これらの間のトレードオフ関係が予想される。そのために、本研究では高変異率大腸菌の増殖速度を独立に測定し、その遺伝的負荷から進化速度への影響を予測したうえで、実験室内進化実験を行った。 本年度は、大腸菌のDNA修復遺伝子を破壊させて様々な変異率を持つ大腸菌株を準備した。その結果、野生型に比べて数十~数百倍の変異率を持つ菌株の獲得に成功した。そしてこれらの菌株の増殖速度を測定し、高変異率化がもたらす増殖阻害効果を明らかにした。また全自動実験進化システムを駆使して5種の増殖阻害剤を用いた試験的な実験進化を行った。そして、従来定量的には観察されていなかった変異率に対する進化能のピークを実験的に観察することに成功した。そして、5種の薬剤間で変異率と進化速度との関係は異なった。このことは、細菌の最適変異率が存在し、また条件によりそれが異なる、あるいは操作可能であることを示し、従来観察されていなかった新しい知見である。これらは、今後本格的に行う大規模な実験進化のデザインに必要なものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
予定していた最初の段階である様々な変異率の大腸菌株の用意、および薬剤への適応進化の試行に成功したため。これにより、残りの期間中の研究計画完了への道筋を立てることが可能となる。また、全自動実験進化システムへ実験をうまく実装することができたため、今後の系のハイスループット化も容易となった。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、構築した実験進化系を用いて、様々な薬剤に対する適応進化を観察する。これにより、薬剤ごとの変異率と進化速度との違いからその作用機序や背後にある具体的な適応メカニズムを明らかにする。また、得られた知見をもとに新規の環境などにおける進化速度や最適な変異率を予測することも試みる。これにより、有用細菌の育種などの工学的な応用にもつながると期待する。 さらに、適宜必要であれば外部からの変異原の添加などによる高変異率化実験も追加 し、より条件の一般化及び定量化を進める。ここで、これらの変異原は一部が発がん性を有するなど扱いが難しいため、所属機関のルールや可能な安全対策などと照らして慎重に進める。 以上で得られた結果を学会発表および論文誌上で発表し、研究成果を世に広く共有する。
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次年度使用額が生じた理由 |
条件検討を含む予備実験などが、予定していたよりも順調に進行したため、必要な試料や機材が少なく済んだ。次年度以降の本格的な実験をよりハイスループットにすることで、この分を有効に使用する。
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