研究課題/領域番号 |
19K16143
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
松花 沙織 神戸大学, 理学研究科, 助教 (70767251)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | MafB / シス調節領域 / 心臓神経堤細胞 |
研究実績の概要 |
神経堤細胞は多分化能と移動能をもち、神経管形成期に背側神経管から生じ、遊走細胞となり、決まった経路を移動する。心臓神経堤細胞は、耳胞から第3体節に位置する神経堤領域から生じ、第3、4、6咽頭弓を移動して大動脈管や甲状腺、副甲状腺、胸腺をつくる。さらに移動した心臓神経堤細胞は心臓流出路に到達する。心臓流出路は総動脈幹という一本の管に、心臓神経堤細胞が入り込み中隔細胞へと分化することで壁をつくる。この中隔は大動脈肺動脈中隔と呼ばれ、心臓神経堤細胞だけがこの中隔へ分化できる細胞分化能をもつ。心臓神経堤細胞の発生異常・欠損は、主に大動脈肺動脈中隔形成不全となり大動脈と肺動脈が分離しない総動脈幹遺残症 (PTA; Persistent Truncus Arteriosus)という重大な心疾患に至る。心臓神経堤を切除したニワトリ胚では、この中隔を失ったPTAの表現型を示す。転写因子であるMafB遺伝子はロンボメア5と6で発現することで、そこから生み出される心臓神経堤細胞でも発現が見られる。MafB遺伝子は神経堤細胞の中でも心臓神経堤細胞特異的な発現を示し、心臓神経堤細胞の初期発生に必須であることがわかっている。MafBの発現は心臓神経堤の特異性を生み出す要因になっているという仮説のもと、本研究ではMafBを心臓神経堤細胞で発現させる機構を明らかにすることを目的とし、そのためにまずMafB遺伝子のシス調節領域を同定するための解析を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2020年度は神経堤細胞の中で心臓神経堤細胞特異的な発現を示すMafB遺伝子について、シス調節領域を同定するための実験を行った。まず、ニワトリMafB遺伝子の周辺ゲノム領域において、脊椎動物種間で保存性の高い領域を見出した。この候補領域配列を単離し、プロモーター及び蛍光タンパク質EGFPの上流に連結したレポーターコンストラクトを作成し、ニワトリ初期胚へエレクトロポレーションにより導入し、レポーターの発現活性を観察した。その結果、心臓神経堤細胞形成期のニワトリ胚において、ロンボメア5と6及び心臓神経堤細胞でEGFPの発現を観察することができた。よって、このレポーターは内在のMafB遺伝子の発現を再現している。以上の結果から、MafB遺伝子のシス調節領域を同定できたといえる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、同定したMafB遺伝子のシス調節領域を用いたレポーターによる心臓神経堤細胞の追跡や分化細胞種の探索、さらにこのシス調節領域を利用した心臓神経堤細胞特異的な遺伝子欠損や異所発現システムを構築することで、心臓神経堤細胞欠失による心疾患モデルニワトリの作成・その心疾患メカニズムの解明を目指す。 一方で、MafB遺伝子のシス調節領域に関与する転写因子の解析についても進める。具体的には、この領域上に存在する複数の転写因子の結合候補配列にそれぞれ変異を導入したレポーターを作成し、そのレポーターをニワトリ胚へ導入し、レポーターの発現活性を解析する。この解析から、本研究課題の軸となる心臓神経堤細胞の独自性を生み出す分子機構の解明に迫ることができると期待している。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染拡大防止のための大学における研究活動に制限が生じたため、当初予定していた実験計画の変更を余儀なくされた。2020年度に予定していた組織染色実験の立ち上げを延期し、主に分子生物学実験とニワトリ胚を用いた発生学実験を行った。そのため、新しく立ち上げる実験にかかる新規備品・消耗品の購入を見送ることとなった。一方で、2020年度に行った実験によりMafB遺伝子のシス調節配列を同定できたことで、より良い手法で当初からの目的であった心疾患モデルニワトリ胚の構築を目指している。まずはこの新規手法を確立させた上で、ニワトリをモデルとした心疾患解析のための組織染色実験の立ち上げを行う予定である。
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