動物が厳しい自然環境を生き抜く為には自身がもつ適応形質から現況に適したものを判断し発現しなければならない。しかしその判断は、いつ、どんな場合でも同じというわけではなく、同じ動物種でも個体や集団のレベルでばらつきが見られる。これまでに我々は小型哺乳類の適応形質のひとつ「休眠」に着目し、その発現頻度が成熟したひと腹の兄妹内で異なること、更にその個体差が離乳以前に生じる「兄妹内の競争」に起因する可能性を提示してきた。 本年度は、昨年度に報告した、兄妹間で離乳(巣立ち)のタイミングが異なること、またその順番が成熟後の休眠発現に及ぼす影響について検討した。その結果、先の報告と同様に、兄妹内で出生時体重の小さい個体の方が休眠発現しやすいという結果を得た。従って、離乳後分散(巣立ち)の早さが休眠能力の利用性と関連しているという興味深い説が示唆された。今後、巣立ちの早さと分散距離(どの程度違った環境を選好するか、など)の検討が必要であるが、少なくとも休眠という適応戦略の利用性が、ひと腹の家族(兄妹)関係に紐づけられていることは間違いない。現在、投稿準備中の論文を仕上げ、更なる追加検討を加え、新たな適応進化のメカニズム解明を目指す。 また、臨時で実施していた食糞行動と休眠の関係に関しては、飢餓状態でなくとも、食糞阻止されれば休眠するという知見を得て、現在こちらも論文投稿の準備中である。また、この成果は、これまで「飢餓」により誘導されるとしたマウスの休眠現象に対する新たな説を提唱するものである。生物学的背景の多くが明らかなマウスを使っている利点を活かし、今後、食糞阻止時に働いている遺伝子や代謝産物の解析に移行していく。このテーマに関しても、令和5年度からの科研費(若手)にも採択され、学術的意義の高い研究成果になったと考えられる。
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