研究課題/領域番号 |
19K16292
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
鈴木 裕輔 京都大学, 生命科学研究科, 助教 (90723669)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 空間学習 / バーンズ迷路 / ネットワーク解析 |
研究実績の概要 |
認知地図の神経基盤として,場所の物理的・幾何学的な特徴が,海馬や内側嗅内皮質等の場所細胞や格子細胞等の神経細胞群によって表現されることがよく知られている.一方で,ネットワーク表現は,場所の物理的・幾何学的表現を “要約”した表現とみなせ,認知地図において重要な場所表現の一つとして用いられている可能性も十分に想定できる.しかし,その脳情報処理過程の解明は始まったばかりである.そこで本研究では,場所のネットワーク表現の神経相関を示すことを目的とする.方法として,自由行動下で空間探索(バーンズ迷路課題)中のマウスの移動経路から,探索地点をノード,それらの間の遷移をリンクとするネットワークを一連の構造パラメータによって定量化し,それらと海馬 CA1, CA3, 歯状回の特定の神経細胞種におけるポピュレーションレベルのカルシウム応答特性との間の相関を検証する.本研究の成果は,多種膨大な場所情報をいかにして表現するかという脳の計算メカニズムの新たな一側面に迫る. 本年度まで,[1]マウス行動データからのネットワーク抽出と,[2]空間探索中の神経細胞群の活動の計測と推定,[3]ネットワーク構造パラメータと神経細胞群の活動との相関検出が実施された.加えて,通常サイズ(直径 1 m)のバーンズ迷路上に生成されるネットワーク構造と,前者の 3 倍広いバーンズ迷路上に生成されるネットワーク構造が,単純な等倍の関係にはならず,量的,質的に異なることを発見した.この結果については現在論文化を進めている.狭いバーンズ迷路と広いバーンズ迷路の両方からネットワーク構造の神経相関を検証することで,結果がどの程度一般的であるかを評価できるようになる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
探索中のマウスの移動データから移動経路のネットワーク構造を抽出できること,海馬 dCA1 のイメージングデータから ~1000 個程度までの細胞の位置,形状,活動波形を推定し,各細胞の活動をバーンズ迷路課題の全日に渡って追跡できることを確認し,バーンズ迷路上に形成されたネットワークのパラメータと,神経細胞群の活動パタンとの相関を解析するまでのパイプラインを構築している.加えて,通常のサイズ(直径 1 m)のバーンズ迷路と,より広い 3 m サイズのバーンズ迷路の間で,生成されるネットワーク構造が,量,質的に異なることを発見し,この新規知見の論文化を進めている.また,有識者とのディスカッションを通して,より広い 3 m サイズのバーンズ迷路でのカルシウムイメージングを可能にするシステムを検討した.
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今後の研究の推進方策 |
現在,通常サイズのバーンズ迷路と,より広いサイズのバーンズ迷路で生成されるネットワーク構造の量的,質的な違いをまとめた論文を執筆中であり,英文校閲後に投稿予定である.その後,revise に応じた追加実験を行う.また,通常サイズのバーンズ迷路で生成されたネットワーク構造の神経相関と,より広いサイズのバーンズ迷路でのそれを比較することで,ネットワーク構造の神経相関に関する知見を深め,今後の研究の試金石とする.
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍で予定されていた遠隔地での学会やディスカッション等がオンラインに変更されたため,旅費が大幅に減少したため.また,実験・解析系を改善することで,マウスの購入数を削減できたため.
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