研究課題
必須微量元素の一つであるセレンの欠乏は心筋障害を起こすことがあり,心臓において重要な機能を担っていると考えられる。しかし,心臓へのセレンの輸送やその代謝過程については未解明な部分が多く残されている。本研究は,心筋細胞へのセレン取り込み機構を中心とした,セレン代謝過程を明らかにするため,下記の事項を検討した。・培養心筋細胞におけるセレン利用能の検討:心筋細胞を種々のセレン化合物を添加した培地で培養し,その利用能を検討した結果,多様なセレン化合物が細胞に取り込まれ,グルタチオンペルオキシダーゼなどのセレンタンパク質の生合成に利用されていることを示す結果が得られた。特に,ヒト血清アルブミンに結合させたセレンが心筋に取り込まれたことは,生体内でもこのような反応が起こっている可能性を示唆しており,心臓へのセレン供給過程の解明につながると考えられる。また,心筋細胞内ミオグロビンの発現とセレン代謝との関連性を調べるため,ラットミオグロビンを過剰発現させた心筋細胞を樹立した。・ミオグロビンに結合したセレンの反応性の検討:これまでに心筋由来ミオグロビンにセレンが結合することを確認していたが,その生理的意義については不明であった。本研究では,ミオグロビンに結合したセレンが,他の遊離チオールタンパク質へ移行できることを確認した。モデルタンパク質としてヒト血清アルブミン(HSA)を用い,セレンを結合させたミオグロビンと反応させた結果,HSAの遊離チオール量に依存してセレンがHSAへ移行することが確認された。さらに,HSAの遊離チオールをアルキル化によりブロックすると,セレンの移行が阻止された。また,ミオグロビンに結合したセレンは,ラットの心臓細胞質由来の他の遊離チオールへ移行することも確認された。以上の結果は,ミオグロビンが心筋細胞内で,セレンの輸送に関与していることを示唆していると考えられた。
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JBIC Journal of Biological Inorganic Chemistry
巻: 26 ページ: 933~945
10.1007/s00775-021-01903-6