研究課題
BALB/cマウスに重曹(NaHCO3)を経口投与し、血清中および尿中重炭酸イオン濃度の変動を評価した。その結果、重曹投与後すぐに血清中および尿中重炭酸イオン濃度の一過性の上昇が見られ、24時間後までで定常値に戻ることを示した。また、尿中重炭酸イオン濃度の上昇に伴い、尿pHも顕著に上昇する(アルカリ化する)ことを明らかにした。別のアルカリ化剤として、クエン酸配合剤であるUralytを用い、同様の実験を行ったところ、Uralytの経口投与においても血清中重炭酸イオン濃度、尿中重炭酸イオン濃度、尿pHの顕著な上昇が認められた。Colon26マウス結腸がん細胞をBALB/cマウスに皮下移植することで担がんマウスを作成し、重曹およびドキソルビシン(DXR)あるいはドキソルビシン封入リポソーム(Doxil)を併用投与した際の抗腫瘍効果を評価したところ、重曹の併用でDXRおよびDoxilの治療効果が顕著に上昇することを明らかにした。また、投与期間中における体重減少は見られなかったことから、全身毒性は低いことが示された。次に、Colon26担がんマウスに重曹および投与量の異なるDoxilをそれぞれ投与し、抗腫瘍効果と尿pH変動との相関について評価を行った。その結果、Doxilの投与量が高い群(抗腫瘍効果が高い群)では重曹投与によって尿pHがアルカリ化していること、またDoxilの投与量が低い群(抗腫瘍効果が低い群)では腫瘍の成長によって尿pHが酸性に傾くことを示し、Doxilの抗腫瘍効果と尿pHは正の相関を示すことを明らかにした。以上の結果より、重曹をはじめとしたアルカリ化剤の投与によって腫瘍内環境が中性化し、DXRやDoxilの抗腫瘍効果が増強することを示した。
1: 当初の計画以上に進展している
アルカリ化剤(重曹およびUralyt)の投与によって、血清中および尿中の重炭酸イオン濃度が変動することを示し、当初予定していた弱塩基性抗がん剤(DXRおよびDoxil)の抗腫瘍効果が増強することを示すことができた。また、アルカリ化剤投与による腫瘍内中性化の評価に関しても良好なデータが出始めている。
次年度では、アルカリ化剤の投与による腫瘍内中性化の評価を引き続き進める。また免疫療法として免疫チェックポイント阻害剤(抗PD-1抗体)とアルカリ化剤の併用による効果増強とその機序解明について、追加で明らかにすることを目指す。これら成果については、次年度に英語論文として発表できるように、データの収集と論文執筆に勤める。
すべて 2019
すべて 学会発表 (1件) (うち国際学会 1件)