本年度では、アルカリ化剤を投与した後の腫瘍中pH変動を評価すると共に、免疫チェックポイント阻害剤である抗PD-1抗体の治療効果が増強するかどうか評価した。腫瘍内pHを計測するため、針状pH電極と比較電極をpHメーターに繋ぎ、針状pH電極を腫瘍内に、比較電極を皮下にそれぞれ挿入することで、腫瘍内pHを計測した。担がんマウスの腫瘍内pHを測定したところ、無処置群ではpH 6.67の弱酸性であったのに対し、NaHCO3を14日間経口投与した群ではpH 6.90付近まで中性化することを明らかにした。B16マウスメラノーマ担がんマウスを作成し、抗PD-1抗体とNaHCO3を併用投与した時の抗腫瘍効果を評価したところ、NaHCO3単独では抗腫瘍効果が見られず、抗PD-1抗体単独では無処置群と比較して42.1%の腫瘍増殖抑制効果を示したのに対し、抗PD-1抗体とNaHCO3の併用では80.1%と高い腫瘍増殖抑制効果を示した。マウス生存期間も同様に評価したところ、抗PD-1抗体単独では33.7%の延命効果を示したのに対し、抗PD-1抗体とNaHCO3の併用では52.6%の高い延命効果を示した。アルカリ化剤としてクエン酸塩(KNa-cit)を用いた場合も同様の効果が認められ、抗PD-1抗体とKNa-citの併用で高い抗腫瘍効果と延命効果を示した。さらに、抗PD-1抗体とKNa-citを併用した時の腫瘍内免疫細胞の割合をフローサイトメーターで解析したところ、抗PD-1抗体単独およびKNa-citとの併用で、細胞障害性免疫細胞であるCD8+ T細胞の割合が増加すること、またpHを中性化することで細胞障害性サイトカインであるIFN-gammaの産生が増強することを明らかにした。以上より、アルカリ化剤による腫瘍中性化は、抗PD-1抗体をはじめとした免疫療法の治療効果を高めることを明らかにした。
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