本研究課題では、Sryが発現する生殖腺体細胞の遺伝子発現解析(RNA-seq)の結果として抽出された代謝関連遺伝子の解析を実施した。その過程において、RNA-seqのデータを注視したところ、Sryの近傍に未知の転写産物が存在することを発見した。 哺乳類の性はY染色体にある性決定遺伝子Sryにより決定する。Sryが発見されてから30年間、Sryはひとつのエキソンで構成され、ただ一種類のSRYのみをコードすると考えられてきた。本研究課題では、Sryが発現する生殖腺体細胞において、転写開始点を解析するCAGE-seqや長鎖RNA-seqなどのトランスクリプトーム解析を実施し、Sryに第2エキソン(隠れエキソン)があることを発見した。この発見により、マウスのSryには、以前から知られていたシングルエキソン型のSingle-exon type Sry(Sry-S)と、今回新たに発見したTwo-exon type Sry(Sry-T)が存在することが明らかになった。次に、Sry-Tの性決定における役割を調べるために、発見した第2エキソンをゲノム編集により削除したSry-T欠損マウスを作製した。Sry-T欠損マウスはXY型の性染色体を持つにもかかわらず雌に性転換した。このことからSry-Tは雄への性決定に必須であることが明らかになった。さらに、Sry-TまたはSry-Sを同一の条件下でXX型のマウスに発現させる実験を試みたところ、Sry-Tを発現させたマウスのみが雄へ性転換した。これらの実験により、SRY-Tが生体内で必須な性決定因子であり、XX型のマウスを雄に性転換させる能力があることが示された。以上の結果から、マウスの性決定遺伝子Sryにはこれまで知られていなかった“隠れエキソン”が存在し、そのエキソンがコードするSRY-Tが真の性決定因子であることを明らかにした。
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