私達は先行研究で、大腸癌を含む特定の癌種において発現が亢進しているKLF5 (Kruppel-like factor 5) 遺伝子と大腸癌で亢進しているノンコーディングRNAとして同定されたCCAT1 (Colon cancer associated transcript 1) 遺伝子が協調的に発現制御されている可能性を示唆するデータを得た。そこで、本研究は三次元ゲノム構造に着目し、KLF5とCCAT1の発現制御メカニズムと大腸癌悪性化への関与について明らかにすることを目的とした。まず始めに組織レベルにおけるKLF5とCCAT1の関係性を検討するために、初年度の研究で大腸癌組織 (臨床サンプル) から抽出したRNAを用いてqRT-PCR法を行った。その結果、KLF5とCCAT1のRNA発現レベルは相関していた。最終年度は、大腸癌組織パラフィン切片を用いて免疫染色とin situ hybridization (RNAscope) を行った。その結果、大腸癌組織におけるKLF5タンパク発現とCCAT1 RNA発現にも有意な相関関係が認められた。KLF5の高発現症例では有意に予後不良であった。次にKLF5とCCAT1の発現制御メカニズムの解明に取り組んだ。初年度の大腸癌細胞株を用いた研究で、KLF5はCCAT1の発現に影響を与えるが、CCAT1はKLF5の発現に影響を与えないことを明らかにした。最終年度はデータベースを用いた解析とChIP-qPCR法によって、KLF5タンパクが三次元ゲノム構造に関わるタンパクと共にKLF5遺伝子のプロモーター領域、エンハンサー領域、CCAT1遺伝子のプロモーター領域に結合していることを明らかとした。以上の結果より、KLF5タンパクによる三次元ゲノム構造がKLF5遺伝子とCCAT1遺伝子の協調的な発現制御に関わっている可能性が示唆された。
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