研究課題/領域番号 |
19K16631
|
研究機関 | 順天堂大学 |
研究代表者 |
池田 美恵 順天堂大学, 大学院医学研究科, 学振特別研究員(RPD) (40734314)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | アルテミシニン / in vitro 検査法 / ELISA / Pyknotic form / RSA |
研究実績の概要 |
マラリアの中で最も致死率の高い熱帯熱マラリアはアルテミシニン(ART)を主軸とした治療法の普及によって致死率が大幅に減少してきた。しかし東南アジアにおいてART耐性原虫が報告され、最近になって最大流行地であるアフリカにおいても耐性原虫の出現が報告されている。In vitroでのART耐性原虫検出方法はring-stage survival assay (RSA)であるが、RSAは生存原虫を主に顕微鏡で検出するためlabor-intensiveであり、定量的な耐性評価が難しいという欠点がある。 本研究は、RSAへの解析法にマラリア原虫のHRP-2抗原を用いたELISA法を用いて、上記欠点を克服したin vitro耐性検査法を開発することを目的としている。RSAでの解析ではARTによって出現するPyknotic formがELISAでの解析に影響を与える可能性が高い。Pyknotic formがELISAを用いた解析に影響するか、さらにPyknotic formの出現頻度はART耐性と関連づけられるのかを解析した。前年度までにカンボジア由来原虫株は、出現頻度と耐性の有無に相関関係がないことが明らかになっている。 本年度は研究室で培養株化したウガンダ由来原虫株について解析した。この株はRSAではフィールドにおいても実験室においても感受性であり、700nM ART処理ではPyknotic formの出現は起こらなかった。ウガンダ由来のART耐性原虫株でも同様の解析を行う予定であるため、耐性株の培養株化を進めている。 さらにELISAでの測定について、耐性原虫よりも測定値が高いART感受性原虫があるため、この原因がPyknotic formによるものか否かを再現実験を実施しながら精査する。ELISAが不適となった場合にはRT-qPCRなどmRNAを指標とした定量を行う予定である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究計画では、Pyknotic formについてその生死判定の明確化のために蛍光染色法での解析を計画していた。当初予定ではPyknotic form形成に有効な試薬を用いる予定であったが、この試薬を用いても十分な量のPyknotic formが出現しなかった。またRSAで出現したPynotic formをそのまま解析することも考えたが、出現割合が不安定であったことから蛍光観察での解析については一旦保留とした。 計画を変更して耐性原虫と感受性原虫について、前年度までに実施していたPyknotic formの出現頻度についての追試を行いながら、また唯一確立出来たウガンダ由来原虫を用いてフィールドデータの検証とウガンダ株のPyknotic form出現頻度の解析を行った。この原虫株ではpyknotic form出現頻度は非常に低かった。 これがウガンダの原虫の特徴であるのかは本解析のみでは不明であるため、さらにウガンダART耐性培養株を確立し、その耐性とpyknotic formの出現頻度について解析する。 qRSAの検証のためにはウガンダでの調査が必要である。しかしコロナ禍での海外調査制限がありRSAの検証を行えるような大規模な調査の見通しは立っていない。そのためPyknotic form自体の解析にはカンボジア株を使いながら、ウガンダ由来株が複数になり次第、そちらを用いてin vitro での実験を行い、qRSA-ELISAの有効性を検証予定である。以上のことを踏まえ進捗状況はやや遅れているとした。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究の目的は、より効率的なアルテミシニン耐性検出法の確立であるため、既存の東南アジア由来の培養株だけではなくウガンダ由来の培養株での検討が必須である。本研究に使用可能なウガンダ由来培養株をさらに増やし、それらを用いてPyknotic form の解析やin vitro qRSAを実施する予定である。qRSAの解析はELISAに加えRT-qPCRも用いながら、pyknotic formの影響を受けにくい解析法を検討する。 また本研究ではPyknotic formの生物学的な意義に注目し、研究を行っているが、未だ十分な検討が出来ていない。特にPyknotic formと形態的に似ているマラリア原虫の赤血球内に観察される休眠体との関連、これらがまったく別個のものか、形態的に連続しているものなのか、は不明である。薬剤処理条件を変えることで両者の出現頻度が変わるのかを明らかにしていく。 フィールドでの検討に関しては、今後の海外渡航の条件緩和と現地での大規模な実験を含む調査がどこまで可能になるのか、見通しがついていないため不透明である。渡航可能かつ現地受け入れが可能となった場合に備えて実験系の構築などの準備を進めていく。
|
次年度使用額が生じた理由 |
本研究は当初三年計画であったが2020年度は産休とその後の育休のため研究をすべて中断しており、現在生じている次年度使用額に関してはそのために生じたものである。昨年度復帰したが、コロナ禍によって海外渡航が不可であるため、フィールドでの調査は前年度から不可能であり、研究活動の場は実験室が主になっている。 今後の計画としてマラリア培養に用いるための消耗品や試薬、qRSA解析のためのELISAやRT-qPCRなどに用いる試薬に当該助成金を使用予定である。また実験に用いるマラリア原虫の大量培養のための自動培養装置にかかる消耗品にも使用する。仮に渡航可となった場合には、現地で用いる実験用試薬やサンプル運搬などにも当該予算をあてる。
|