研究課題/領域番号 |
19K16649
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研究機関 | 岐阜薬科大学 |
研究代表者 |
高橋 圭太 岐阜薬科大学, 薬学部, 助教 (50634929)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 経口ワクチン / DNAワクチン / 乳酸菌 / Citrobacter rodentium |
研究実績の概要 |
本研究は、ヒトに対する安全性が高いと考えられる乳酸菌をベクターとして用いた経口ワクチン系の開発に関する研究である。令和元年度には、(1)抗原遺伝子を導入した抗原発現乳酸菌、(2)乳酸菌から調製した細菌様粒子(Bacterium-like particles, BLP)と抗原蛋白の複合体、の経口投与により抗原特異免疫の誘導が可能か検討した。また、(3)経口投与した乳酸菌から宿主腸管細胞にプラスミドDNAの移行が起こる現象を利用した経口DNAワクチン系についてプラスミドDNA送達の標的細胞の同定を行った。 (1)マウスの病原細菌であるC. rodentium(CR)の細胞接着関連蛋白質であるIntiminを発現する組換え乳酸菌(LL/Int)を構築した。LL/Intをマウスに経口投与し、Intimin特異的抗体価を指標として免疫誘導能を評価した。血清中IgG、糞便中IgAは検出限度以下であったが、小腸内IgAでは一定の上昇が認められたことより、LL/Intの経口投与は一定の免疫誘導能を有すると考えられた。 (2)大腸菌発現系を用いて、モデル抗原であるCRの細胞接着関連蛋白質Tirとペプチドグリカン結合蛋白(LysM)の融合蛋白(Tir-LysM)を発現・精製した。Tir-LysMとBLPを混合し、複合体(BLP-Tir)を形成した。BLP一粒子当たり10,000個以上のTir-LysM分子が結合することを明らかにした。BLP-Tirをマウスに経口投与し、免疫誘導能を確認した結果、血清中IgG抗体価の著しい上昇を認めた。 (3)CMVプロモーター駆動でGFPを発現するプラスミドDNAを導入した乳酸菌をマウスに経口投与し、小腸でGFPを発現する細胞を解析した結果、小腸粘膜固有層およびパイエル板に局在する好酸球が主にGFPを発現する細胞であることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究ではこれまでに、(1)抗原遺伝子を導入した抗原発現乳酸菌、(2)乳酸菌から調製した細菌様粒子(Bacterium-like particles, BLP)と抗原蛋白の複合体、の経口投与により抗原特異免疫の誘導が可能か検討した。また、経口投与した乳酸菌から宿主腸管細胞にプラスミドDNAの移行が起こる現象を利用した経口DNAワクチン系について、(3)プラスミドDNA送達の標的細胞の同定を行った。これらの研究実績は当初予定していた内容をおおむねカバーしており、本研究は順調に進展していると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究成果を踏まえ、(1)から(3)の研究項目について今後は以下に記載した内容で研究を進める。 (1)抗原遺伝子を導入した抗原発現乳酸菌による免疫誘導:これまで乳酸菌としてLactococcus lactis NZ9000株を用いていくつかの抗原候補蛋白質発現系を構築し、その免疫誘導能を特異抗体産生の誘導を指標として評価してきたが、その免疫誘導能は想定よりも低レベルであった。この低い免疫誘導能は使用した乳酸菌株の腸管内滞留時間が短いことや自然免疫活性化能が弱いことに起因している可能性がある。そこで、これまで検討してこなかった他の乳酸菌種のスクリーニングを行い、免疫誘導に適した乳酸菌の同定を行う。 (2)BLP抗原複合体を用いた免疫誘導:BLP抗原複合体の経口投与では、血清中IgGの増加は認められるものの、糞便中IgA(すなわち粘膜免疫)の増加は認められなかった。その原因について解析した結果、消化酵素によるBLP表面の抗原の分解が影響している可能性が考えられた。そこで、抗原の分解を回避するためBLP抗原複合体を腸溶性素材でコーティングしたものを作製し、その免疫誘導への影響を明らかにする。 (3)DNAワクチン送達系:これまでの研究で、真核細胞用発現プラスミドを保持する乳酸菌の経口投与により、主に好酸球で乳酸菌が保持する発現プラスミド由来の遺伝子発現が起こることを明らかにしてきた。今後は、病原体由来抗原遺伝子をクローニングした発現プラスミドを構築、乳酸菌に導入し、その乳酸菌の経口投与により抗原特異的免疫誘導が起こるかを、抗体産生、細胞性免疫を指標として解析する。また、好酸球特異的なプラスミドDNAの送達が、腸管の好酸球機能にどの様な影響を及ぼすかを解析していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)Citrobacter rodentium由来抗原蛋白を発現する乳酸菌について、マウスを用いた免疫誘導能が想定よりも低く、この部分についての実験をさらに進めることができなかった為、未使用額が発生した。 (使用計画)Citrobacter rodentium由来抗原蛋白を発現する乳酸菌について、今後の研究推進の方策欄に記載した内容を進めるために使用することとしたい。
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