乳酸菌をキャリアとして用いる経口ワクチン系に関する研究を行い、①‐③の成果を得た。 ①Citrobacter rodentium(CR)のマウス感染実験モデルを用い、CR抗原を発現する組換え乳酸菌の経口投与の免疫誘導能と感染防御効果を検討した。抗原発現乳酸菌の経口投与は一定の抗原特異免疫を誘導したが、CR感染に対する防御効果はみられなかった。CR感染モデルに関して、CR感染時の病原因子特異抗体産生には、宿主上皮細胞へのCRの接着が必須であることを明らかにした。これらの結果から、非接着細菌である乳酸菌を経口ワクチンキャリアとして用い、強力な免疫を誘導するには、上皮細胞への接着性を乳酸菌に付与する等の工夫が必要であると考えられた。一方、接着性の付与は病原性の獲得につながる恐れがあることから慎重な検討が必要である。 ②乳酸菌をキャリアとした経口DNAワクチン系に関して、真核細胞内でGFPを発現するプラスミドを保持する乳酸菌の経口投与により、小腸粘膜固有層に局在する細胞(主にSiglec-F陽性好酸球)にプラスミドを送り込み、細胞内でGFPを発現させることができることを明らかにした。このGFP発現プラスミド保持乳酸菌をマウスに複数回経口投与することで、一部の個体でGFP特異的抗体産生が誘導されることを明らかにした。一方、細胞侵入性を有する乳酸菌を用いた場合でも免疫誘導能の向上はみられなかった。 ③腸内細菌叢が異なる同系統のマウスで抗原発現乳酸菌の経口投与時の抗原特異的抗体誘導に違いがみられることが明らかになった。最終的なヒトへの応用を考えると、腸内細菌叢が乳酸菌ワクチン系の免疫誘導能にどのような機序で影響を及ぼすかの解明が重要である。 以上の結果から、乳酸菌ワクチン系の経口投与は一定の免疫誘導能を有すると明らかになったが、接着性の付与や投与経路の変更などさらに検討が必要である。
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