研究課題/領域番号 |
19K17324
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研究機関 | 山陽小野田市立山口東京理科大学 |
研究代表者 |
小野田 淳人 山陽小野田市立山口東京理科大学, 薬学部, 助教 (70835389)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 胎児・新生児医学 / 中枢神経系 / 脳脊髄液 / 動物モデル / 周産期脳障害 / 脳虚血 / ミクログリア / オリゴデンドロサイト |
研究実績の概要 |
本研究の最終的な目標は、周産期脳障害の早期診断と根本治療の確立に向けた基礎的知見の創出にある。2年度までは、作製した周産期脳障害のモデル動物から脳脊髄液を採取し、その脳脊髄液中タンパク質プロファイルの情報学的解析により、治療および診断マーカーの候補となる分子を4種類同定した。 3年目では、臨床応用に向けて、脳脊髄液中分子の漏出先である血清からの候補分子の検出を目的に研究に取り組んだ。液体クロマトグラフ/質量分析機を用いて、対象となる候補分子4種類すべてがモデル動物の血清中から検出され、そのうちの3種類の存在量が、対照群に対し有意に変動していることが示された。本研究により見出された分子を臨床応用するためには、ヒト血清での再現性と種差の検証が不可欠である。共同研究先の医療機関より、対象疾病の患児および同時期に出産された正期産成熟児から臨床検査に用いた血清の残り(残血清)の提供を受け、その血清から候補分子の検出量を評価した。収集した血清から、モデル動物で変動が認められた3種類の候補分子のうち、1種類が定量可能なレベルで検出された。現在、成長後の脳機能と検出された候補分子の血中存在量との間にある相関性を解析するために、各児が発達検査の対象年齢となるときを待っている。 ヒト血清からの標的分子の検出と並行し、周産期脳障害に起因する脳発達異常の機序解明に向け、見出された候補分子と病態との間にある関係性についての研究も進めた。とくに、周産期脳障害の原因の一つが、児の脳内が低酸素低栄養状態に陥ることにあると報告されているため、その脳内環境を模倣した、神経・グリア細胞の低酸素低栄養培養法を確立した。その過程で、見出された4種の分子が、モデル動物と同様の発現変動を示す最適な酸素濃度、各種栄養濃度を明らかにした。現在、この培養法を用いて、各分子が持つ機能とその発現変動が細胞に及ぼす影響を評価している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究計画の中では、新型コロナウイルス感染症拡大に伴い、研究時間の減少や試料収集の遅延が懸念されたが、3年目終了時点までに目標としていた、モデル動物の作製、そのモデル動物からの脳脊髄液採取、脳脊髄液中タンパク質網羅的解析による病態の包括的理解、そのデータに基づく診断マーカー候補分子の探索、治療に対する候補分子の応答性、その分子の脳内局在の評価、その分子の発現変動と行動表現型との相関性、そして、ヒト血清からの検出すべてを達成することができた。そのうえで、次の研究テーマとして考えていた、血清中存在量と脳機能との相関性についての初期検討の準備を進められたこと、見出した分子と病態との関係性を明らかにするための細胞培養法の確立を進められたことから、当初の計画を上回る成果を得られたと考えている。 一方で、新型コロナウイルス感染症の拡大により、海外を中心とした学外の研究者との交流や意見交換の機会が減少し、関連研究の情報収集に関しては想定を下回った。ここまでで得られた成果を論文としてまとめ投稿するとともに、新型コロナウイルス感染症がおさまり次第、その内容に関して国際会議等で発表することで関連する研究者と意見交換し、新たな情報を収集する。その情報を次の研究の遂行に役立てる。
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今後の研究の推進方策 |
第一に、見出したバイオマーカー候補分子が周産期脳障害に伴う脳発達異常を予測する診断指標として使用可能か、その検証を進める。具体的には、残血清の提供を受けた児の脳発達検査の結果を収集し、その候補分子の血中存在量と発育後の脳機能との間にある相関性を評価する。この相関性に基づき、脳発達異常をより早期に診断・予測する技術の開発を目的とした次なる研究テーマへと繋げる。とくに、生後間もない段階において、定量的な生化学的評価指標から脳機能の発達が予測可能になれば、今まで見落とされていた、あるいは発見の遅れていた脳発達の変化を出生後の早い段階から捉え、より高い治療効果が期待される神経可塑性の高い時期からの治療介入が可能になると考えられる。 第二に、見出した候補分子の、脳発達における機能と役割を明らかにする。特に、確立した培養法を用い、低酸素低栄養状態に陥った神経およびグリア細胞において、その候補分子の発現量の経時的変化、細胞内外における局在の変化、その発現量と局在の変化の影響を受ける他の分子集団の評価を行い、低酸素低栄養状態における各種細胞での、その候補分子の機能と役割を推定する。特に、現在までのタンパク質プロファイルの機能解析により、脳細胞の分化・成熟、神経ネットワークの形成、炎症制御に関与する分子集団の異常発現が、モデル動物の脳脊髄液から見出されている。この知見を踏まえ、脳細胞の分化・成熟、シナプス形成、炎症の3つの観点を中心に解析を進め、周産期脳障害に起因する脳発達異常の機序解明を目指す。さらに、この培養細胞を用いた検証により明らかとなる候補分子の機能が、周産期脳障害に起因する脳発達機能や行動表現型の変化と、どのように関連しているのか、モデル動物を用いてその検証を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度に予算を使用する理由は、残血清の提供元である児の成育を待つ必要性が出てきたからである。研究の過程では、新型コロナウイルス感染症の蔓延により、想定していた学外への出張のほぼすべてが取り消された。この移動による時間コストの減少に伴い、学内での実験や解析に専念する時間が増え、想定以上に研究を進めることができた。そのため、本研究課題で到達目標としていた十分な試料とデータの収集・分析が3年目の上半期の時点で達成した。空いた時間を無駄にしないために、次の研究テーマとして予定していた「本研究により見出された候補分子の血清中存在量と脳機能との関連性を評価する研究」を前倒しで進めることを決め、残血清の収集のみならず、その分析までを3年目に取り組んだ。その際に、残血清の提供元である児の脳機能と候補分子の血清中存在量との相関性を調査するうえで、児の発育を待ち、残り1年研究を継続して遂行した方が研究成果をまとめるうえで有効であると判断した。その残りの研究を遂行するために必要な経費を確保するために、使用計画を変更し、次年度使用額が生じた。なお、使用計画の変更に伴う年度予算の減少は、国内外における出張費用の減少と民間財団からの助成金によって十二分に補うことができた。
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備考 |
立花 研, 小野田 淳人. 小学校理科教室 ほんものの科学体験講座 -食べ物の中の色成分を調べてみよう-. 山陽小野田市立埴生小中一貫校・津布田小学校, 2021年10月.
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