これまでの研究により、周産期脳障害のモデル動物から、治療および診断マーカーの候補となる分子を3種類同定した。当年度は、前年度から引き続き、臨床応用に向けて、同定した3種の候補分子をヒト血清から検出し、定量することを目的に行った。共同研究先の医療機関から対象疾病の患児および同時期に出産された正期産成熟児の残血清の提供を受け、解析に用いた。モデル動物で変動が認められた3種の分子のうち、1種が収集した血清から定量可能なレベルで検出されたが、残りは十分量検出されなかった。検出された1種類の分子に関しては、それまでのモデル動物を用いた成果と同様に、周産期脳障害群での発現変動を確認した。この結果を踏まえ、候補分子の経時的な発現変動を調査し、その分子の血中濃度推移と成長後の脳機能との相関性について解析する予定である。 また、ヒト血清中の候補分子の解析とともに、検出された候補分子の発現異常が脳発達異常に寄与する発症機序の解明に向けた基礎研究も行った。周産期脳障害の主要な要因の一つである低酸素低栄養状態で神経細胞を培養する方法を検証し、確立した。この手法を用いて、候補分子の発現量や局在が低酸素低栄養により生じる変化を評価した。結果、モデル動物と同様に、候補分子の発現変動が認められた。さらに、モデル動物を用いた組織病理学的解析も進めた。これまでの研究により、脳細胞の分化・成熟、神経ネットワークの形成、炎症制御に関与する分子集団の異常発現が見出されている。この知見を踏まえ、脳細胞の分化・成熟、シナプス形成、炎症の3つの観点を中心に、候補分子の組織病理学的解析をすすめ、脳内局在を評価し、候補分子の発現変動を示す脳領域および細胞種の同定を行った。今後、これらの知見を踏まえ、周産期脳障害により脳発達異常が生じる原因と機序について、候補分子を軸に、培養細胞とモデル動物の双方を用いて解明していく。
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